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聖女がガチャに狂うまで
001.聖女、スキル〈ガチャ〉を授かる
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「セラフィナ様の授かったスキルは、ガチャです、か?」
目の前の司教様が煮え切らない声でそう言いました。
ここはエルダリオン王国にある神聖大聖堂。キラキラと輝くステンドグラスから青やかな光が差し込み、荘厳な、いや、さっきまでは荘厳だった雰囲気の中、わたしは司教様の後光と共に照らされています。
どういう状況なのか、そう思われる方もいるかもしれませんがそれはわたしも聞きたいところです。少なくともわたしは目の前の大きな祭壇で司教様にスキル授与の儀をしてもらい、スキルを授かった、はずでした。
「ガチャ、ですか?」
わたしは司祭様の言葉をそのまま反芻します。ガチャというスキルを初めて聞いたので本当にそのようなスキルで合っているのかを確認した形です。
ですが司教様の言葉は変わりません。
「間違いありません。ガチャ、ですね」
戸惑いながらも断定した司教様の言葉に、先ほどまで静かだった周囲の観衆たちは次第にざわざわとし始めました。最初はわずかなささやき声が聖歌隊の余韻のように響くのみでしたが、すぐにそれは波紋のように広がっていきます。
「ガチャ、だと? そんなスキルは聞いたことがないぞ」
「少なくとも王国の伝承や神話にこのような力の記述はないな」
「ですが、スキル授与の儀は神々からの賜り物。そうそうおかしなことにはならないのでは?」
「いや、ガチャなどというふざけた名前のスキルが聖女に相応しいものとは到底思えんな」
賛否両論の声が聞こえてきます。
恐れ多くも聖女の称号を賜っているわたしのスキル授与には多くの貴族の方や位の高い神官たちが参列しています。ですので、わたしのスキルが王国中に広まるのは時間の問題のようです。いえ、それ自体は別にいいのですが、問題なのはそのスキルがどのようなものなのかわからないことですね。
「そこな司教よ。ガチャとはどのようなスキルなのだ? 説明を要求する」
緊張の面持ちでわたしの気持ちを代弁なさったのはロドリゲス様。この王国でも高位にあたる侯爵の地位と宰相の役職を持つ大貴族です。ついでに言うとわたしの出資者、つまりありていに言うとパトロンでもあります。
「ロドリゲス侯爵殿の心配はごもっともでございます。ガチャというスキルがこれまで我々の知識にないものであることは私も認識しております。ですから私も神託に基づいたありのままを述べることとします。──このスキルは、神々が直接明かさぬ秘儀の一端に触れる力である。『ガチャ』の名は偶然を装いし運命の選定を意味し、その性質は非常に不確実であり、それと同時に計り知れない潜在力を秘めている。このスキルの最も異質な点は、その結果が完全に予測不可能であり、術者が使用するたび、異なる能力や恩恵、時には試練さえも引き出されるということである──」
大聖堂内の空気がさらに重くなったような気がします。
「──『ガチャ』は、一度使用されるごとに、神々が選んだ無数の運命の糸から一つの結果を引き出す。その結果は、時に力強き武具を、時に癒しの力を、あるいは救いをもたらす協力者を呼び出す。そしてこの力を使いこなすには術者が徳を積む必要があるだろう。──以上が神託の全てでございます」
「……ふむ。異常なスキルであることはわかったが、聞く限りにおいては有害なスキルではなさそうだな」
「いや。ロドリゲス侯爵。試練という言葉は看過できませぬぞ。それが害を及ぼすやもしれぬからな」
「マルケス公爵の言うとおりですな。しかもそれが運に左右されるようではないか。危険極まりない」
「いやしかし、それ以上に恩恵が大きそうなのも事実」
「しかしもかかしもあるまいよ。このスキルによって王国が危機に陥ったらどうするつもりかね」
「そうとも。今この王国は平穏そのもの。わざわざ危険を犯す必要はあるまい」
私の頭ごしにどんどん議論はエスカレートしていきます。どちらかというとガチャ反対派の方が多そうでしょうか。とくにロドリゲス様の反対派閥、マルケス公爵を中心とした貴族派に所属するものたちが中心となって反対しているようです。
「静まれ」
貴族たちの激しい議論が収まらない中、突然、大きく重厚な声が響き渡りました。
その声はすべての人々の注意を一瞬で引き寄せ、議論していた貴族たちも、反対派も賛成派も即座に沈黙し、声のありかに顔を向けます。
「どうせ決まらぬのなら一度セラフィナにスキルを使ってみさせればよかろう」
そこにいたのはにこやかに笑みを浮かべる第一王子、アレクシス殿下の姿でした。
────────────────────
作中に一部大袈裟な表現が含まれていますが、実態はただのガチャです。
目の前の司教様が煮え切らない声でそう言いました。
ここはエルダリオン王国にある神聖大聖堂。キラキラと輝くステンドグラスから青やかな光が差し込み、荘厳な、いや、さっきまでは荘厳だった雰囲気の中、わたしは司教様の後光と共に照らされています。
どういう状況なのか、そう思われる方もいるかもしれませんがそれはわたしも聞きたいところです。少なくともわたしは目の前の大きな祭壇で司教様にスキル授与の儀をしてもらい、スキルを授かった、はずでした。
「ガチャ、ですか?」
わたしは司祭様の言葉をそのまま反芻します。ガチャというスキルを初めて聞いたので本当にそのようなスキルで合っているのかを確認した形です。
ですが司教様の言葉は変わりません。
「間違いありません。ガチャ、ですね」
戸惑いながらも断定した司教様の言葉に、先ほどまで静かだった周囲の観衆たちは次第にざわざわとし始めました。最初はわずかなささやき声が聖歌隊の余韻のように響くのみでしたが、すぐにそれは波紋のように広がっていきます。
「ガチャ、だと? そんなスキルは聞いたことがないぞ」
「少なくとも王国の伝承や神話にこのような力の記述はないな」
「ですが、スキル授与の儀は神々からの賜り物。そうそうおかしなことにはならないのでは?」
「いや、ガチャなどというふざけた名前のスキルが聖女に相応しいものとは到底思えんな」
賛否両論の声が聞こえてきます。
恐れ多くも聖女の称号を賜っているわたしのスキル授与には多くの貴族の方や位の高い神官たちが参列しています。ですので、わたしのスキルが王国中に広まるのは時間の問題のようです。いえ、それ自体は別にいいのですが、問題なのはそのスキルがどのようなものなのかわからないことですね。
「そこな司教よ。ガチャとはどのようなスキルなのだ? 説明を要求する」
緊張の面持ちでわたしの気持ちを代弁なさったのはロドリゲス様。この王国でも高位にあたる侯爵の地位と宰相の役職を持つ大貴族です。ついでに言うとわたしの出資者、つまりありていに言うとパトロンでもあります。
「ロドリゲス侯爵殿の心配はごもっともでございます。ガチャというスキルがこれまで我々の知識にないものであることは私も認識しております。ですから私も神託に基づいたありのままを述べることとします。──このスキルは、神々が直接明かさぬ秘儀の一端に触れる力である。『ガチャ』の名は偶然を装いし運命の選定を意味し、その性質は非常に不確実であり、それと同時に計り知れない潜在力を秘めている。このスキルの最も異質な点は、その結果が完全に予測不可能であり、術者が使用するたび、異なる能力や恩恵、時には試練さえも引き出されるということである──」
大聖堂内の空気がさらに重くなったような気がします。
「──『ガチャ』は、一度使用されるごとに、神々が選んだ無数の運命の糸から一つの結果を引き出す。その結果は、時に力強き武具を、時に癒しの力を、あるいは救いをもたらす協力者を呼び出す。そしてこの力を使いこなすには術者が徳を積む必要があるだろう。──以上が神託の全てでございます」
「……ふむ。異常なスキルであることはわかったが、聞く限りにおいては有害なスキルではなさそうだな」
「いや。ロドリゲス侯爵。試練という言葉は看過できませぬぞ。それが害を及ぼすやもしれぬからな」
「マルケス公爵の言うとおりですな。しかもそれが運に左右されるようではないか。危険極まりない」
「いやしかし、それ以上に恩恵が大きそうなのも事実」
「しかしもかかしもあるまいよ。このスキルによって王国が危機に陥ったらどうするつもりかね」
「そうとも。今この王国は平穏そのもの。わざわざ危険を犯す必要はあるまい」
私の頭ごしにどんどん議論はエスカレートしていきます。どちらかというとガチャ反対派の方が多そうでしょうか。とくにロドリゲス様の反対派閥、マルケス公爵を中心とした貴族派に所属するものたちが中心となって反対しているようです。
「静まれ」
貴族たちの激しい議論が収まらない中、突然、大きく重厚な声が響き渡りました。
その声はすべての人々の注意を一瞬で引き寄せ、議論していた貴族たちも、反対派も賛成派も即座に沈黙し、声のありかに顔を向けます。
「どうせ決まらぬのなら一度セラフィナにスキルを使ってみさせればよかろう」
そこにいたのはにこやかに笑みを浮かべる第一王子、アレクシス殿下の姿でした。
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作中に一部大袈裟な表現が含まれていますが、実態はただのガチャです。
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