転生?いいえ。天声です!

Ryoha

文字の大きさ
上 下
85 / 96
── 2章 ミニック編 ──

084.シンギュラリティゴブリンクイーン

しおりを挟む
 緑色の肌をした女性がボーダンを突き飛ばした。

 ボーダンは突風に煽られて宙を舞い地面に叩きつけられる。

「ごふ!」
「ボーダン? 大丈夫なのです!?」
「だいじょう、ぐふ」

 大丈夫だと言おうとしたのだろう。しかしボーダンは背中を折って口から血を吐き出した。その背中は球状に抉られていて明らかに大丈夫ではない。致命傷だ。

「早くポーションを持ってくるのです!」
「ああ! ボーダン! 飲め!」

 ナッツが無理やりポーションをボーダンに飲ませるが回復する兆しはない。

「中級ポーションじゃダメか!?」

 その様子を嘲笑うようにニヤリと眺めていた女性はゆっくりとボーダンの方に向かってくる。

 わたしはその女性を〈天眼〉で確認した。

────────────────────
 種族:シンギュラリティゴブリンクイーン
 状態:通常
 人間の女性に近い姿を持つ小鬼型モンスター。推定Bランク。空気と風を魔法で操り突風の弾丸を飛ばしたり、自身に風による素早さ強化のバフをのせたりする。風のバリアを張ることで遠距離攻撃を阻害する。
────────────────────

『ミニック。あれはゴブリンみたい。倒すよ』
『でも、ボーダンが……』
『あーもう! そっちはなんとかするから戦いに集中して!』

 ミニックが少し震えながらシンギュラリティゴブリンクイーンのに弾丸を撃ち込む。しかし、風のバリアが発動して弾丸を通さずに吹き飛ばしていく。

 わたしはミニックが牽制しているうちに〈天与〉を発動した。

<供与する技能、魔法または聖遺物を選択してください>

 ヴォイドインジュアリーを選択。

<天声ポイント10ptの消費を確認しました。〈天与〉を開始します……完了しました>

『ミニック! 画面を共有してもいい?』
『大丈夫なのです』

────────────────────
 魔法名:ヴォイドインジュアリー
 対象に触れて発動することで対象の負傷を無かったことにする。
────────────────────

『これでボーダンを治療して!』
『わかったのです!』

「ナッツさん! 足止めを頼むのです!」
「あれをか? 俺たちには無理だ!」
「10秒でいいのです」
「わかった。10秒でいいんだな。カイレン、リアナ、ホーク行くぞ!」

 ミニックがボーダンの前まで移動して精神集中を始める。

 その間ナッツたち4人は弓と魔法でシンギュラリティゴブリンクイーンを攻撃するがゴブリンクイーンはまたも風のバリアでそれを無効化する。

 ゴブリンクイーンが手を前に突き出した! そこには魔力が練り込まれ風の弾丸が生成されて射出される。

「ぐっ!」

カイレンが剣でそれを防御しようとする。しかし風の弾丸の威力が強くカイレンが吹き飛ばされる。致命傷ではないが戦闘には戻れないだろう。

「ミニック! まだか!?」
「ヴォイドインジュアリーなのです!」

 ミニックがボーダンにヴォイドインジュアリーを発動した。その効果はすぐに現れボーダンの致命傷だった傷は全て癒えてなくなる。

「何があった? ボーダンの怪我がなくなったぞ!」
「ミニックが回復魔法も使えるの!?」

 ミニックの様子を横目に見ていたナッツとリアナが驚きの声をあげる。だがそれに構っている暇はない。

『ボーダンはもう大丈夫! あのゴブリンに攻撃して!』

バンバン!

 ミニックが弾丸を再度ゴブリンクイーンに打ち込む。しかしやはり風のバリアに阻まれて弾丸はゴブリンクイーンに届かない。ニヤニヤと笑うゴブリンクイーン。そのまま風の弾丸を放ってきてミニックたちは懸命にそれを避ける。

「くそ! 何か手はないのか!?」
「魔法を使うのです!」
「わかった。つまりはまた時間稼ぎってことだな!」

 ナッツたちが弓と魔法でゴブリンクイーンを攻撃する。もちろんバリアに阻まれるがその間ゴブリンクイーンも攻撃はできないらしい。今はそれだけの時間が稼げれば十分だ。

「ヴォイドイレイサーなのです!」

 ミニックが素早く精神集中して2連続の魔力のこもった弾丸を撃ち放った。魔力消費を抑えた弾丸で魔力を錬る時間も短縮されている。一発目の魔力の弾丸が風のバリアを消失させて、次弾が消失させた空間を通り抜けてクイーンの眉間に吸い込まれそうになる。

 しかしそれはクイーンの手前で弾かれるように阻まれてた。

 おそらくバリアを2重で張っていたのだろう。せっかく練習してきた戦法が簡単に打ち破られた。

 しかし今の弾丸にはゴブリンクイーンも驚いているようだ。ミニックを敵と見做したようできつい目線をミニックにむけている。

 ゴブリンクイーンの足に魔力が集中していく。そう思ったらいつの間にかミニックの前にゴブリンクイーンが現れて掌底を放とうとしているところだった。

 風による素早さ強化のバフか! やられた! これでは回避が間に合わない!

 時間が走馬灯のように引き伸ばされる感覚におちいる。視界が狭くなる。また失敗か。やり直しになってしまう。

 掌底がミニックに迫る。もうだめか! わたしは目を瞑りたい感覚におちいる。

「ゴフ」

 掌底がに突き刺さった。

 一瞬『どういうこと?』と混乱するが、ギリギリのところでカイレンがミニックとゴブリンクイーンの間に割り込んだのだと認識が追いついた。

カイレンの腹は大きく抉れてゴブリンクイーンの腕が貫通している。そのゴブリンクイーンの腕をカイレンが気力を振り絞ってつかみかかる。

「借りは、返した、ぞ。今の、うち、にやれ!」
「でも!」
「時間がない! はや、く!」
「……許さないのです!」

 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!

 ゴブリンクイーンの眉間に銃口を当て弾丸を連射する。流石にこの近さでバリアを張ることはできない。至近距離からのオーバキルの攻撃だ。ゴブリンクイーンは脳天を撃ち抜かれてもすこしの間痙攣していたがやがて動きが止まって息たえた。

「カイレン! もういいのです! 腕を離すのです!」

 シンギュラリティゴブリンクイーンが死んだ後もカイレンは腕を離さず掴んだままだった。意識を失っているのか。このままゴブリンクイーンの腕が体に入り込んだままでは回復ができない。

「引き離して!」
「わかってるぜ!」

 駆け寄ってきたリアナとホークがカイレンとゴブリンクイーンの死体を引き離す。

「ヴォイドインジュアリー!」

 ミニックが回復魔法を発動した。カイレンの穴が空いた体が一瞬にして元の状態に戻る。しかしカイレンは目を覚さない。

「……間に合わなかったのです?」
「まさか」

 リアナがカイレンの意識がないことを確認して心臓に手をやる。心臓マッサージをするようだ。胸骨圧迫と人工呼吸を交互に行い意識を取り戻そうと必死になって心肺蘇生をおこなっていく。

 しかし、カイレンの目が覚めることは無かった。






<天の声保持者の大切な者の死亡を確認しました。協議を開始します>

 わたしの視界は暗転した。

しおりを挟む
ツギクルバナーカクヨムバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

孤高の英雄は温もりを求め転生する

モモンガ
ファンタジー
 『温もりが欲しい』  それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。  そんな願いが通じたのか、彼は転生する。  意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。  周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。  俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...