転生?いいえ。天声です!

Ryoha

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── 2章 ミニック編 ──

082.州長と作戦会議

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 ミニックは盗賊達をすべて撃退した。周りには盗賊の成れの果てが死屍累々と積まれている。

「助けていただきありがとうございますわ」
「どういたしましてなのです。だけど騎士達は助けられなかった人がいるのです」
「あなたが悔やむ必要なありませんわ。これはわたくしが背負うべき業なのですわ」
「でもなのです」

 二人のいう通り騎士達は全てを救うことはできなかった。でも、それは仕方がないことだ。ミニックは神でも勇者でもないんだから。救えないものなんてこれからもいくらでも出てくるだろうし。

『いちいち気に病んでたらキリがないよ』
『わかっているのです』

 わかってないから言ってるんだけどね。多分ミニックはそのことに気がついてないと思うけど。

「それよりもあなたのお名前はなんと言いますの?」
「ミニックなのです」
「ミニック様。いいお名前ですわ。わたくしはコーネリアと申しますわ。こう見えてアラバ州の州長をしておりますの」
「州長なのです!?」

 州長ってこの州で一番偉い人だよね? なんでこんなところで襲われているのかな? また〈天運〉さんがいたずらをしたのかな?

「あの盗賊達はわたくしの命を狙っていたのですわ。おそらくわたくしの州長の後釜に他の誰かをあてがうためですの。ミニック様がいなければ死んでいたのですわ」
「助けることができてよかったのです」
「あの、それで、もしよろしければ州都のカタノヴァまで護衛をしていただいてもよいですの? また襲われないかと不安ですの」

『まあいいんじゃないかな。御者ももういないと思うしカタノヴァまではそんなに遠くないからね』
『なのです。一度戻ってもゴブリンの討伐戦には間に合うと思うのです』

「もちろんなのです」
「ありがとうございますわ! イザベラ! いいですわよね?」
「お嬢様の命のままに」

 コーネリアの言葉に後ろに控えていた騎士が返事をした。イザベラというのはこの女性みたい。騎士の中で一際豪華な鎧を着ているので上の階級の人なんだろうね。

「お嬢様はやめるのですわ。もうそんな歳ではないのですわ」
「お嬢様は幾つになってもお嬢様ですよ」

 コーネリアとイザベラはただの主従関係ではない雰囲気を醸し出しているね。コーネリアのことを小さい頃から知っているような口ぶりだ。まあ、どうでもいいことだけど。

「騎士達の死体はどうするのです?」
「かわいそうですがここに埋めていくしかありませんね」
「よかったらぼくが持っていくのです」
「できるのですか?」
「ぜひお願いしますわ!」
「わかりましたなのです!」

 元気よく返事をしたミニックが戦死した騎士達の元に行き、黒い空間に亡骸を入れていく。〈収納〉を使って運ぶ気みたいだね。

「すごいですわ!」
「これは、〈収納〉ですか?」

 コーネリアもイザベラも驚いているみたいだ。というかミニックまた勝手に〈収納〉を使ってる。これは苦言を言わなくちゃいけないかな?

『ミニック。〈収納〉はあんまり人の前で使わないでって言ったよね?』
『でもコーネリア様が困ってるのです』
『……まあ、今回はいいけど次から気をつけて』
『わかったのです』

 本当にわかってるのかな? いつか痛い目に遭わなきゃいいけど。


 ◇◇◇


 カタノヴァまでの道のりは距離が短かったこともあり特に何事もなく護衛は終了した。今は城門の前で騎士達の死体を出している。これが終わったらミニックの仕事は終了だね。

「ありがとうございましたわ」
「どういたしましてなのです」
「もしよろしければ、一緒にご飯でもどうですの? ミニック様ともう少しお話したいですわ」

 コーネリアが食事のお誘いをしてくる。

『そうすると討伐日の前日までに戻れなくなりそうだね』
『なのです』

「申し訳ないのです。実はスタリアでゴブリンの討伐戦があってそれに参加しなくてはいけないのです。すぐに出ないと前日までに間に合わないかもしれないのです」
「そうなんですの? どうしてもだめなんですの?」
「スタリアのゴブリン討伐については聞いております。お嬢様。ミニック様に無理を言ってはいけません」
「残念ですわ」

 コーネリアはちょっと渋っていたけどイザベラに諭されてミニックを解放してくれるみたいだ。

「ところでミニック様」
「なんなのです?」
「助けていただいた身で言うのもなんなのですがミニック様の〈収納〉はあまり人前で見せない方がいいかと。争いの火種になる可能性がありますので」
「わ、わかりましたなのです」

 イザベラにも言われてしまったね。これからは気をつけてよね。ミニック。

「ミニック様。本当にありがとうございましたわ。わたくしにできることがあればなんでも言ってくださいませ。力になりますわ」
「ありがとうございますなのです。それではなのです」
「ええ。また会いましょうですわ」

 ミニックは再度馬車に乗りスタリアの道を進んでいくのだった。


 ◇◇◇


 コーネリアの護衛を終えたあと2日間の工程を経てミニックはスタリアに戻ってきた。
 今はすでにギルドに戻りアイリスへ報告をしている。

「ミニックさん。おめでとうございます。Dランクに昇格です」
「ありがとうございますなのです」
「それにやっと防具を買えたんですね。今までずっと普通の服でしたから少々不安だったのです。これでだいぶよくなったでしょうね」
「はいなのです。これで不意打ちを受けても大丈夫なのです」

 いや、不意打ちはまだ怖いからわたしが目を見張ってるけどね。

「そうかもしれないですね。それで明日の討伐隊なのですがミニックさんにはボーダンさんの隊の指揮下に入ってもらいます」
「よう! よろしくなミニック!」
「ボーダンなのです。よろしくなのです」

 ここからはボーダンも混ざって話を続けるみたいだね。

「仲が良さそうでよろしいです。二人の隊には一番ゴブリンが密集しているであろう巣の最奥を目指してもらいます。おそらくゴブリンキングがいるのでそれを倒すのが第一目標ですね。それと第二目標はゴブリンの掃討です。ただこれは他の冒険者たちにもやらせるのでそこまでこだわらなくてもいいです」
「モブのゴブリンは任せるのです! 全部殲滅してやるのです」

 ミニックがだいぶ強気なことを言い始めた。やっぱりトリガーハッピーになりかけてる気がするよね。気をつけなければ。

「それがいいかもな。ミニックが雑魚を屠っている間に俺がゴブリンキングを仕留めるか」
「もし仕留め損ったらぼくが倒してあげてもいいのです?」
「おうおう。俺が仕留め損なうと思うのか? ゴブリンキングなんてCランクの魔物だぜ? 一対一で負けるもんかよ」

 ミニックの軽口にボーダンが反論する。だけどボーダンよ。それはフラグにならないかな?

「喧嘩をしないでください。本来ならわたしも討伐に参加したかったのですがギルドマスターという肩書き上それはできないので」
「だな。しかしそうなると回復役が少なくなるか」

 アイリスは回復ができる命魔法を使えるらしいからね。回復系の魔法を使える人材は少ない。回復役が足りないのもうなずける。

「中級ポーションであれば備蓄はあるのですが」
「まあゴブリン相手だ。それで大丈夫だろう」
「わかりました。それでは後方支援役に持たせますので自由に使ってください」
「ああ。これで作戦会議は終わりだな? ミニック。これから夕飯でもどうだ?」
「いくのです。ボーダンの奢りなのです?」
「ああ。奢ってやる。そのかわり明日はきびきび働けよ?」
「わかっているのです!」

 作戦会議はこれで終わりらしい。

 あとは明日に向けて英気を養うだけだ。
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