55 / 96
── 1章 アルト編 ──
054.ノクターン城塞都市の状況
しおりを挟む
「スペイシャルゲート」
アルトたちはアーサーの出した白い扉を通り一軒の宿屋の中に移動した。宿屋の受付らしい。受付をしていた人は白い扉から出てきた3人に驚くこともせずアーサーに礼をとる。
「やあ。部屋は空いてるかい?」
「もちろんでございます。そちらは……いえ、3名様でよろしかったでしょうか?」
店主はセリスの尻尾を見て少し顔をしかめる。しかしすぐに笑顔に戻して対応を続けていく。
「ああ。それとこの二人のことは内密に頼むよ」
「かしこまりました」
アルトたちが訳ありであることはわかっているみたいだけどすぐに部屋へ案内する。案内されたのは想像以上にこじんまりとした部屋だ。王太子がこんなところに泊まっていて大丈夫なのかなと少し心配になってしまうくらいには狭い。
「そういえばアーサーさんはセリスを見ても大丈夫なんですね?」
アルトは寝かしつけたセリスを見ながらアーサーに質問していた。わたしもちょっと気になる。この国の人は亜人獣人を毛嫌いしてるって聞いたからね。
「ああ。ぼくは外交の関係上亜人獣人をみることも多いからね。慣れてしまったよ。それにハモニス教会の中でも勇煌派は亜人獣人も好きなことが多いからね」
「そうなんですか?」
「ああ──」
アーサーによると実はハモニス教会の全てが亜人獣人を嫌っているわけではないらしい。というよりもハモニス教会の総本山があるフルル聖国では獣人亜人も普通に暮らしているくらいには友好的なのだそうだ。それは初代勇者が亜人獣人とともに旅をして友好的な関係を築いていたことが起因しているという。特に勇者の存在を重視する勇煌派は亜人獣人好きが顕著に出るみたいだ。
そういえばノーアも勇煌派だと言っていた。セリスを見ても大丈夫だったのはそういう理由だったんだね。
逆に魔滅派は亜人獣人を重視しないらしい。それはハモニス教会では人族以外が祝福を授からないことからくる。人族だけが祝福を授かることから調和神ハモニスが人族を特別扱いしていると解釈しているらしい。なので魔滅派は魔人族はもちろん、亜人獣人も人族より劣っていると考えているようだ。トロン王国は元々純人国家であったことに加えて魔滅派の数が多数を占めるため、亜人獣人嫌いが加速していったということのようだ。
「それでなぜエレイン様はノクターン城塞都市にいるんですか? 確か魔王国オクアに隣接した都市ですよね?」
「知っているんだね?」
「はい」
へー。魔王国って魔王のいる国だよね? 魔王国とトロン王国の隣国なんだ。てっきりすごい離れた場所にあるイメージだった。
「じゃあノクターンが今魔人族との戦闘の最前線なのは知っているかい?」
「いえ。知りません」
アーサーによるとノクターン城塞都市には魔王国オクアから魔人族が攻め込もうとしているらしい。それをハモニス教会の〈結界術〉の使い手が魔王国との国境付近にある城塞を全てカバーするほどの結界を駆使して都市を守っているのだとか。
それにしてもハモニス教会がここでも出てくる。
何度も煮湯を飲まされたわたしにとっては今更ハモニス教会のいいところを聞いてもね。ほんとかよって思ってしまうよね。
「ハモニス教会に頼りすぎじゃないですか?」
「それを言われると頭が痛いね。王家としてもそれではいけないことはわかっているんだけどね」
魔王国からの国防、そしてエレイン王女の治療。どちらをとっても王家が教会を頼っているという図式になってしまう。
この国に駐在するハモニス教会の聖職者の中でヴァルガンが一番偉いらしい。そして国王も国防と治療の両方を請け負ってもらっている手前ヴァルガンには強気に出れないそうだ。
それって聖職者が政治を握る構図になっているように見えるけど? 大丈夫か。この国?
「話を戻すと、戦闘の最前線になっているノクターンには怪我人が出るから聖女様が常駐しているんだ。継続して治療をしてもらうにはちょうどいいんだよ」
「でもそれだと危険じゃないですか?」
アルトの言う通りだと思う。戦闘の最前線にあたる都市で療養させるのは危ないんじゃないかな?
「それは大丈夫。戦闘とは言っても結界で隔てられた向こう側で行われているからね。今まで結界の中に侵入されたことはないから城塞都市内は安全だ。それに教会側からの要請でね。聖女様の治療を受けさせる代わりにエレインをノクターンの境界で療養させるように言われているんだ。聖女様の負担を少なくするためだと言われると無碍にはできなくてね」
「そうですか。随分と強力な結界なんですね?」
「ああ。セラフィナ嬢はすごい〈結界術〉の使い手だよ。本来ならエレインもセラフィナ嬢に従事するはずだったんだけどね」
アーサーの顔に少し影が差した。しかしすぐにいつもの顔に戻ってアルトに茶目っ気を込めて言った。
「それじゃあぼくは一度王都に戻るよ。実は執務が溜まってしまっているんだ。片付けないと明日のエレインの治療に支障が出そうだからね」
なるほど。王太子様は一度帰るみたいだね。そりゃ、こんな簡素な部屋では寝ないよね。
それにしても執務か。王太子は大変だね。
アルトたちはアーサーの出した白い扉を通り一軒の宿屋の中に移動した。宿屋の受付らしい。受付をしていた人は白い扉から出てきた3人に驚くこともせずアーサーに礼をとる。
「やあ。部屋は空いてるかい?」
「もちろんでございます。そちらは……いえ、3名様でよろしかったでしょうか?」
店主はセリスの尻尾を見て少し顔をしかめる。しかしすぐに笑顔に戻して対応を続けていく。
「ああ。それとこの二人のことは内密に頼むよ」
「かしこまりました」
アルトたちが訳ありであることはわかっているみたいだけどすぐに部屋へ案内する。案内されたのは想像以上にこじんまりとした部屋だ。王太子がこんなところに泊まっていて大丈夫なのかなと少し心配になってしまうくらいには狭い。
「そういえばアーサーさんはセリスを見ても大丈夫なんですね?」
アルトは寝かしつけたセリスを見ながらアーサーに質問していた。わたしもちょっと気になる。この国の人は亜人獣人を毛嫌いしてるって聞いたからね。
「ああ。ぼくは外交の関係上亜人獣人をみることも多いからね。慣れてしまったよ。それにハモニス教会の中でも勇煌派は亜人獣人も好きなことが多いからね」
「そうなんですか?」
「ああ──」
アーサーによると実はハモニス教会の全てが亜人獣人を嫌っているわけではないらしい。というよりもハモニス教会の総本山があるフルル聖国では獣人亜人も普通に暮らしているくらいには友好的なのだそうだ。それは初代勇者が亜人獣人とともに旅をして友好的な関係を築いていたことが起因しているという。特に勇者の存在を重視する勇煌派は亜人獣人好きが顕著に出るみたいだ。
そういえばノーアも勇煌派だと言っていた。セリスを見ても大丈夫だったのはそういう理由だったんだね。
逆に魔滅派は亜人獣人を重視しないらしい。それはハモニス教会では人族以外が祝福を授からないことからくる。人族だけが祝福を授かることから調和神ハモニスが人族を特別扱いしていると解釈しているらしい。なので魔滅派は魔人族はもちろん、亜人獣人も人族より劣っていると考えているようだ。トロン王国は元々純人国家であったことに加えて魔滅派の数が多数を占めるため、亜人獣人嫌いが加速していったということのようだ。
「それでなぜエレイン様はノクターン城塞都市にいるんですか? 確か魔王国オクアに隣接した都市ですよね?」
「知っているんだね?」
「はい」
へー。魔王国って魔王のいる国だよね? 魔王国とトロン王国の隣国なんだ。てっきりすごい離れた場所にあるイメージだった。
「じゃあノクターンが今魔人族との戦闘の最前線なのは知っているかい?」
「いえ。知りません」
アーサーによるとノクターン城塞都市には魔王国オクアから魔人族が攻め込もうとしているらしい。それをハモニス教会の〈結界術〉の使い手が魔王国との国境付近にある城塞を全てカバーするほどの結界を駆使して都市を守っているのだとか。
それにしてもハモニス教会がここでも出てくる。
何度も煮湯を飲まされたわたしにとっては今更ハモニス教会のいいところを聞いてもね。ほんとかよって思ってしまうよね。
「ハモニス教会に頼りすぎじゃないですか?」
「それを言われると頭が痛いね。王家としてもそれではいけないことはわかっているんだけどね」
魔王国からの国防、そしてエレイン王女の治療。どちらをとっても王家が教会を頼っているという図式になってしまう。
この国に駐在するハモニス教会の聖職者の中でヴァルガンが一番偉いらしい。そして国王も国防と治療の両方を請け負ってもらっている手前ヴァルガンには強気に出れないそうだ。
それって聖職者が政治を握る構図になっているように見えるけど? 大丈夫か。この国?
「話を戻すと、戦闘の最前線になっているノクターンには怪我人が出るから聖女様が常駐しているんだ。継続して治療をしてもらうにはちょうどいいんだよ」
「でもそれだと危険じゃないですか?」
アルトの言う通りだと思う。戦闘の最前線にあたる都市で療養させるのは危ないんじゃないかな?
「それは大丈夫。戦闘とは言っても結界で隔てられた向こう側で行われているからね。今まで結界の中に侵入されたことはないから城塞都市内は安全だ。それに教会側からの要請でね。聖女様の治療を受けさせる代わりにエレインをノクターンの境界で療養させるように言われているんだ。聖女様の負担を少なくするためだと言われると無碍にはできなくてね」
「そうですか。随分と強力な結界なんですね?」
「ああ。セラフィナ嬢はすごい〈結界術〉の使い手だよ。本来ならエレインもセラフィナ嬢に従事するはずだったんだけどね」
アーサーの顔に少し影が差した。しかしすぐにいつもの顔に戻ってアルトに茶目っ気を込めて言った。
「それじゃあぼくは一度王都に戻るよ。実は執務が溜まってしまっているんだ。片付けないと明日のエレインの治療に支障が出そうだからね」
なるほど。王太子様は一度帰るみたいだね。そりゃ、こんな簡素な部屋では寝ないよね。
それにしても執務か。王太子は大変だね。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
やさしい魔法と君のための物語。
雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。
※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※
かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。
ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。
孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。
失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。
「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」
雪が溶けて、春が来たら。
また、出会えると信じている。
※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※
王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。
魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。
調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。
「あなたが大好きですよ、誰よりもね」
結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。
※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※
魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。
そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。
獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。
青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――?
「生きる限り、忘れることなんかできない」
最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。
第四部「さよならを告げる風の彼方に」編
ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。
※他サイトにも同時投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
孤高の英雄は温もりを求め転生する
モモンガ
ファンタジー
『温もりが欲しい』
それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。
そんな願いが通じたのか、彼は転生する。
意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。
周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。
俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる