転生?いいえ。天声です!

Ryoha

文字の大きさ
上 下
42 / 96
── 1章 アルト編 ──

041.更なる異変

しおりを挟む
 水竜王をジェノサイドして〈水竜王の聖水〉を飲んで休憩を挟んだ後、アルトたちはそのまま21階層を探索しようとしていた。21階層はあちこちに小さな火山がある峻厳としたエリアであちらこちらに道が続いていた。
 セーフティーエリアを出てしばらく進んだときノーアの〈気配察知〉に感がある。

「2体。なんか変」<2体だけどなんかおかしいね>
「変って何がですか?」
「戦ってる」<魔物同士で戦ってる>
「魔物同士でですか?」
「ん」<そう>

 二人が近づいていくと確かに魔物が2体、対向して戦っていた。一体はドラゴンみたいに見えるけどもう一体は、炎の鳥?

『セイさん。あの魔物達に〈天眼〉お願いできますか?』
『もちろん』

────────────────────
 種族:ヘルファイアドラゴン
 黒炎を操るドラゴン型の魔物。Aランク。黒炎を纏った翼をもち、その羽ばたきで炎の嵐を生み出す。黒炎のブレスを吐き出し相手を灰に変える。目には相手を灰にする呪いがあり、相手を徐々に炭化させる。弱点は水。
────────────────────

────────────────────
 種族:プラズマフェニックス
 電力施設や研究所で発生したエネルギーから生まれた火の鳥のモンスター。Aランク。火の再生能力を持ち戦闘中に倒されても炎の中から再生し、より強力な力を発揮する個体へと進化する。プラズマを纏う炎を操り放射することで周囲を焼き尽くす。弱点は水。再生中の炎を消火することで倒すことができる。
────────────────────

 すぐさまアルトがウィンドウをに書かれた内容を確認してノーアにそれを伝えていく。

「やっぱりおかしいです」
「ん。竜以外」<そうだね。ドラゴン以外の魔物が出るなんて聞いてない>
「それになんで魔物同士で戦ってるんでしょう?」

 ここは〈竜の巣〉と呼ばれるダンジョンだ。そう呼ばれるだけあってドラゴン系統の魔物しか出ないダンジョンのはず。それにダンジョンでは普通魔物同士で争ったりはしない。魔物が襲うのはいつだって冒険者だ。

「どうします?」
「弱点をつけない。他の道?」<弱点をつけないから他の道を進む?>
「そうしましょうか」
「やっぱりダメ。魔物多い」<やっぱりダメだった。他の道の方が魔物が多い。迂回できない>

 その間にも2体の戦いは激しさを増していく。ドラゴンヘルファイアドラゴンが黒炎のブレスを放ち火の鳥プラズマフェニックスの翼に穴を開ける。しかしその翼が炎に包まれてみるみる再生していき、再度飛翔して火の鳥プラズマフェニックスがプラズマを帯びた炎をドラゴンに放つ。どちらも火の魔物だからかはわからないけどどちらも決め手にかけているみたいだ。

「後ろ。他の魔物」<後ろからも魔物がくる>
「挟まれますね」
「ん。突破」<うん。強引に突破しよう>
「わかりました。ホーリーサンクチュアリを使います」

 ホーリーサンクチュアリは魔力消費が多い魔法だ。本来なら道中で毎回使うほど効率のいい魔法ではない。しかし魔物に挟まれるよりはマシだろう。アルトが戦っている2体に近づいて聖域を展開する。2体は乱入者に気がついたみたいだ。アルトたちに鋭い目線を投げかけている。

「〈付与エンチャント〉ホーリースパーク!」

 2人の剣に雷光を纏わせそのまま2体に向かって駆けていく。2体が緩慢な動作で炎を吐き出してくるがそれを避けて肉薄する。ノーアがドラゴンの首に一閃し、アルトが火の鳥プラズマフェニックスを真上から一刀両断して真っ二つにする。ドラゴンは黒い煙となって消えていき、火の鳥プラズマフェニックスはその切断面から炎を噴き出している。

「まだ死んでない!」<プラズマフェニックスはまだ死んでない!>
「これでもダメですか!?」
「今のうち! 突破!」<再生している今のうちに強引に突破する!>
「わかりました!」

 アルトたちは再生しているのを横目に火の鳥プラズマフェニックスの横を通り過ぎて駆けていった。


 ◇◇◇


「なんとか撒けました」
「ん。厄介」<だね。復活は厄介だった>

 火の鳥プラズマフェニックスをうまく撒いたアルトたちは警戒しながら道を進んでいた。
 所々で魔物たちの反応はあるがどこも魔物同士で争っていてアルトたちに気が付く魔物は少ない。しかし先を急ぐアルトたちには好都合だ。
 たまに二人に気がついて襲ってくる魔物もいるがプラズマフェニックスは出てこなかった。というより竜種以外は同じ魔物がほとんど出てこない。ドラゴンはマグマドラゴンとヘルファイアドラゴンしか出てこないが、他はテクノスパイダー、ネオンファントム、ナノヴァイパーなど多種多様な魔物が出てくる。

『やっぱりおかしいです』
『魔物同士が争ってること? それとも竜種以外の魔物が出てきてること? 魔物の種類が多いこと?』
『それもです。それに魔物の数が明らかに多いです』

 それはわたしも気になっていた。正確には〈冥府を纏うドラゴンの眷属〉が出てきた後から魔物の出現頻度は上がっている。しかし、21階層はさらに体感で二倍くらいには多くなっているんじゃないかというくらい数が多くなっている。

『急いだ方がいいかも』

 本来ならダンジョン探索で焦りは禁物だ。急いで進もうとすればするだけ魔物との遭遇率も増える。少しの油断が命取りになる。
 だけど、さまざまな異変がこのダンジョンで起きている以上、囚われているというアルトの妹が心配だ。そもそもダンジョンに囚われているというのが異常なのにそれ以上の異常が発生しているとなると生存がどんどん危ぶまれていく。

「ノーアさん。急いでもいいですか?」
「りょ」<了解>

 二人は駆け足で進んでいく。ノーアが〈気配遮断〉を使っているがそれでも魔物との遭遇率は少し高くなる。それでも歩いていくよりは早い。

「火の鳥。気付かれてる」<前方にプラズマフェニックス。気がつかれてる>

 厄介な魔物に捕捉された。今の二人では倒しきることのできない魔物が空を飛んで接近してくる。アルトたちは立ち止まり精神集中を始める。魔法の準備だ。迫り来る火の鳥プラズマフェニックスを捕捉しつつ魔力をためはじめる。

「ウインドブロウ!」

 ノーアが風の弾丸を撃ち放った。弾丸が翼に当たり片翼にダメージを負った火の鳥プラズマフェニックスが地面に向かって落ちてくる。

「ホーリーサンクチュアリ!」

 聖域が展開され二人と火の鳥プラズマフェニックスを包み込む。

「ホーリーレイ!」

 続けてアルトが魔法を撃ち放つ。光線が火の鳥プラズマフェニックスを貫き胴体に大穴を開けた。瞬間に大穴から火が噴き出し火の鳥プラズマフェニックスの再生が始まる。

「今のうちに突破しましょう」
「待つ!」<止まって!>

 アルトがノーアの静止を聞き逃して火の鳥プラズマフェニックスの横を通り抜けようとする。しかし火の鳥プラズマフェニックスは胸に大穴を開けながらもアルトに襲い掛かろうとしてきた。アルトは咄嗟にそれを避けようとするが間に合いそうもない。

『危ない!』

 一瞬にして光の柱に包まれた。そのまま跡形もなく消え去り黒い煙となってドロップアイテムを落とす。そしてその煙の中から一人の執事風の男がアルトに向かって話しかけた。

「こんにちは。自由神の勇者殿。いや、まだ勇者じゃないのでしたか?」
しおりを挟む
ツギクルバナーカクヨムバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

孤高の英雄は温もりを求め転生する

モモンガ
ファンタジー
 『温もりが欲しい』  それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。  そんな願いが通じたのか、彼は転生する。  意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。  周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。  俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...