転生?いいえ。天声です!

Ryoha

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── 1章 アルト編 ──

032.哀れな偽水竜王

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 アーサーが颯爽と歩き去っていった後、アルトはさっそくドレスアーマーに着替えることになった。アルトはかなり着替えるのを拒んでいたけど、ノーアに「安全のため。諦める」と言われて渋々着替えた。
 アルトの着替え? もちろん見てません。アルトが釘を刺してきたからね。

 ちなみになぜ天命ポイントが更新されたのかはわからない。まあ元々よくわからない機能だ。そんなに気にすることでもないのかな?

 アーサーの言う通り、ドレスアーマーは丁度アルトの体型にフィットした。ドレスアーマーを纏ったアルトは宇宙をまとっているかのような姿をしていて、ダンジョンの淡い光を受けるだけで煌めく銀の鱗はアルトの銀髪のメッシュと相まって星々と銀河を連想させる。黒と銀で編まれたスカート姿が眩しくゆらめく。それらがアルトの抜群の容姿と合わさって神秘的な可愛いさを表現していた。

 思わず『かわいい!!』と言ったらアルトが無言で睨んでくる。なぜ睨む? それになんでわたしがいる方向がわかった?

「ん。似合う」<うん。似合ってるよ>
「嬉しくないです」
「ドンマイ」<まああきらめて>

 ノーアにはあまり強く言わないんだよね。わたしにはきつい目線を向けてくるのに。
 あと、何を諦めるんだろう? わたしにはわかりませんでした。

 4階層と5階層の探索は順調に進んでいる。4階層では新たにファイアドラゴンイミテイトが、5階層ではウインドドラゴンイミテイトが出現していたが、どちらもアースドラゴンイミテイトより柔らかく、ノーアでも一撃で屠っている。その分攻撃力が高い魔物らしいけど、二人の機動力では当たらないためむしろ難易度が下がってるね。
 ドロップアイテムはそれぞれ〈偽炎竜の核〉、〈偽風竜の羽根〉だ。どちらも錬金術や魔道具に使われる素材になるらしい。そして偽炎竜の核は炎を出す効果もあり、早速火付石がお払い箱に……はならなかった。偽炎竜の核だと使える回数が決まってるからね。火付石はそこのところ無制限で使えるから優秀だ。掌を返すな? なんのことやら。

 そうそう。アーサーが言っていたイレギュラーっていうのは、今までその階層で出てこなかった魔物や、そもそもそのダンジョンで出現しない魔物が現れることをいうみたい。しかも普段ならその階層では出ない強い魔物が出ることもあるらしい。だけどこれはまれではあるけどそれなりに起こるみたいだね。ダンジョンの変遷時には特に頻発するようだ。

「見えてきましたね」
「ん。ボス部屋」<うん。ボス部屋だ>

 ノーアが指差す先、セーフティーエリアの奥にダンジョンの外で見たようなアーチ状の門が見えてきた。ダンジョンの階層ボスの部屋だ。

 この世界の通常ダンジョンは最終階層はダンジョンによって様々だが、5階層毎に階層ボスと呼ばれる魔物が存在することは共通らしい。そして、そのボスを倒さないと次の階層に進むことはできない。そのボスはそれまでの階層にいるモブの魔物よりも1段高い能力を持ち、挑戦者が先の階層へ進むのをはばんでいる。
 ボスはアーチ状の門を潜った部屋の中にいてその部屋からは出てくることはない。それに対してボスを倒すまで門が開かないとかはないらしく、挑戦者はいつでも門から引き返すことができるようだ。随分と優しい設計だね。

 なおアルトたちは本当に一度も寝ずにここまで踏破している。その間15時間強。けっこうなブラック環境だ。

「それじゃあボスを倒しに行きましょうか」
「ん。倒す。休む。寝る」<そうだね。倒してからセーフティーエリアで休憩して寝よう>
「そうしましょう」

 わたしは門の中を覗いてみる。その中は海辺のような光景が広がっていて、水上に大きな魔物が浮かんでいる姿が確認できた。全体的に青みがかった鱗に覆われていて、細長い首に長い尻尾、背中に生えたコウモリのような翼。水の中には大きなヒレのようなものが見える。前世で例えると首長竜、翼の生えたプレシオサウルスのような姿だ。

────────────────────
 種族:ネプトリオンドラゴンイミテイト
 水竜の王を模した姿をした亜竜型魔物。Bランク。ヒレを使い水辺に津波をおこし、口からは水の渦のブレスを吐き出す。弱点は雷属性。また、陸上でも行動することはできるが水中よりも能力が低下する。
────────────────────

『中にいるのはネプトリオンドラゴンイミテイトみたいだよ』
『聞いたことない魔物です』
『津波をおこしたり、水のブレスを吐いたりするみたい』
『なるほど』
『雷属性が弱点みたいだね。あと陸上では動きが鈍くなるみたい』
『わかりました。だとするとあれが効くかもしれないですね』
『わたしもそう思ってたところ』

「ノーアさん。 あの魔物は雷属性が弱点らしいです」
「なる。でも使えない」<なるほどね。でもぼくたちには雷魔法は使えないけど>
「大丈夫です。新しい魔法があるので」

 アルトが作戦を伝えた。その作戦はこうだ。
① 教会の牢獄にいるときに取得した聖魔法、ホーリースパークを水辺に放ってネプトリオンドラゴンイミテイトを先制攻撃する。ノーアも風魔法を使って牽制。
② 水竜が水のブレスや津波の攻撃を仕掛けてきたらアルトのホーリーバリアやノーアのウインドウォールで防御する。
③ ネプトリオンドラゴンイミテイトがしびれを切らして陸に近づいてきたところにノーアとアルトの剣にホーリースパークを付与して陸上戦でしとめる。

 相変わらず作戦ともいえない作戦だ。だけどわたしもこれという作戦は思いつかないので黙っておく。

 アーチ状の門をくぐりボス部屋へと突入した。ネプトリオンドラゴンイミテイト、長いな、偽水竜王と呼ぼう。がこちらに気がついたようだ。鋭い咆哮をアルトたちに浴びせてくる。

「作戦どおりいきます! ホーリースパーク!」

 アルトが水辺に魔法を放った。水辺にまばゆいほどの雷光が照らし、水を紫電が伝って階層ボスに迫る。激しい轟音が立ち上がり煌めく稲妻が偽水竜王を襲った。

 よし。これで後はあの偽水竜王が痺れを切らすまで長期戦だね。

 アルトたちが偽水竜王の次のアクションを待つ。しかし、偽水竜王は頭を上に向けたまま動かない。
 しばらくすると首が水面に向かってゆっくり倒れていく。

 バシャーン!!

 首を水面に打ち付けて偽水竜王は黒い煙となって消えていった。

『あれ?』
「倒した?」

 ……ホーリースパークの威力だけで倒されてしまったようだ。なんて脆い……。
 牽制で倒されるとは偽水竜王、哀れ。

「どうやら倒したみたいですね」
「ん、不甲斐ない」<まったく。ボスのくせに不甲斐ないね>
「あそこまでドロップを取りに行くの面倒なんですが……」
「ん。任せた」<そうだね。アルト。任せたよ>
「こっちの方が倒すより重労働です」

 倒されるより後処理が面倒と言われてしまう偽水竜王。言われたい放題だね。

「……あっ!」

 水辺に行き沈んでいる魔石とドロップ品を拾いに行こうとして突然アルトが何やら驚きの声を発した。

 え、なに!? 何か問題発生!? まだ魔物がいたとか?

「やっぱりダメですね。これしょっぱいです」

 あー、水ね。今飲み水が少ないもんね。海水は飲み水には使えないからね。

 アルトにとってはボスより飲み水がないことのほうがよっぽど問題みたい。さもありなんって感じだけどやっぱり哀れだね。どんまい。偽水竜王さん。

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