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── 1章 アルト編 ──
027.ノーア語を翻訳して?
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中央広間はノーアの乱入で一時混乱状態に陥った。
刑吏と執行人は驚きと共に刑の執行を中断し、広場の観衆も一瞬の出来事に呆然としている。
エルモン異端審問官は驚きの表情でノーアを見つめていた。
ちなみにアルトもノーアを見開いた目で見つめている。
うん。わたしも驚きたいよ! でも今はこの状況をどうするかを考えないと。
『考えてたセリフどうする?』
『……一応言います』
アルトはノーアに抱かれながら、もともと用意していた異端審問官の悪事を暴露する。
「ここにいるエルモン異端審問官はぼくを貶めるために偽物の伝記書を捏造しました! ぼくは(証拠がないから)無実です! この聖なる剣を見てどちらが正しいのか皆さんが判断してください!」
うん。本来はアルトが刑の執行を止めて唖然としたところに悠然と聖剣をかざしながら話すためのセリフだからね。ノーアに抱えられてる状況だと場違い感が半端ないというか説得力がないというか……。あと、アルトさん。ホーリーレイヴァント出すの忘れてます……。
……でも、一定の効果はあったみたいだね。エルモンを疑問視する目線がちらほらと見える。作戦は半分成功、半分失敗ってところかな?
横ではエルモンが立ち直ったみたい。「やつを捉えろ! 逃すな!」と大声で怒鳴り上げている。あっ。刑吏も正気を取り戻した。アルトとノーアに迫ってくる。ノーアは刑吏たちの攻撃を弾き返して姿をくらました。
抱えられてるアルトは見えるけどノーアは見えない。だが周りを見るとアルトも見えていないようだ。皆狐に包まれたような顔をしている。
……多分だけど〈隠密〉副技、〈気配遮断〉〈隠蔽〉を使ったのかな?
あ、ノーアも見れるようになった。あれ? でも見えるようになったのなんでだろう?
◇◇◇
ノーアはアルトを抱えながらエーテルウッドの街の外壁を抜けた。門番たちはノーアとアルトを認識できていないようで目の前を通っても全く見向きもされなかった。もしノーアが暗殺者になったら百殺百中なんじゃないかな? うん。ちょっと寒気がするね。
今、アルトはノーアから降ろしてもらい、街道をエーテルウッドとは反対方面に駆け足で進んでいる。
「助けてくれてありがとうございます」
「ん」
「どうしてぼくを助けてくれたんですか」
「独断」
「独断、ですか?」
「魔滅派の陰謀」
「そうなんですね」
「あと緑の結晶球」
「なるほど」
わたしはいまだにノーアの喋る言葉、言ってしまえばノーア語が理解できない。アルトが後から解読してくれたところによると、偽の証拠をでっち上げてアルトを貶めようとしたのはハモニス教会の中でも魔滅派という、全ての魔人族を根を絶やしにすることを掲げる派閥の陰謀だったらしい。
魔滅派は魔王が使う冥魔法をことさら敵視しており嫌疑だけでも処刑したほうがいいと言い張っているのはこの派閥のようだ。
エーテルウッドは魔滅派の一派がほとんどを占める街で、そこの異端審問官であるエルモンがアルトの処刑を強行したらしい。アルトが王都まで連れて行かれずエーテルウッドで早急に処刑されそうになったのもそれが理由なのかな?
また、ウッドランドドラゴンから取り出した緑の結晶球も理由の一つみたい。なんと緑の結晶球はこれまでで一度も見つかったことがなく、それが持つ植物の生命力や成長を促進する力を接収して教会内で使いたいという理由で、所持者のアルトが邪魔になったんだとか。
うん。あれだけの言葉でなんでアルトはノーアの喋ったことを理解できるのかな? わたしは不思議だよ。
「ぼくは勇煌派」
「そうなんですね」
「〈全剣技〉、聖魔法も勘案すべき」
ノーアは勇煌派という勇者を重視する派閥に属してるらしい。アルトの持つ〈全剣技〉と発現した聖魔法。どちらも勇者にゆかりのあるものだ。
冥魔法はハモニス教会の教義としては悪だが、実を言うとそれを処罰する国の法はない。まあそもそも冥魔法を発現した人族はアルトが初めてらしいから法を作るまでもなかったと言うのが正しいらしいけど。しかし教義として悪であることは変わらないためハモニス教会の裁量でアルトへの処遇が決まったらしいが、本来なら〈全剣技〉、聖魔法のことも勘案して判断すべきなのだとか。しかし今回アルトは冥魔法の行使のみに焦点を当てられて処罰が下されている。しかもまだ冥魔法を使ったことも疑惑の段階だ。
そして今回の魔滅派の強行に疑問を持ち、アルトをさらうことで割って入ることにしたみたいだ。あ、これもアルトが翻訳したやつだよ。
「国外へ行く」
ノーアは国外への逃亡を勧めているようだ。隣にあるべトール連邦ではハモニス教ではなく別の、創造神を信仰する国があるようで、そこに行けばもしハモニス教会が今回の件でアルトを処罰しようとしてきたとしても手を出せなくなる可能性が高いらしい。
「いえ。ぼくはヴァーディアンのダンジョンに行こうと思ってます」
「なぜ?」
「お母さんがぼくの妹を救うために必要だって言ってました」
だがアルトはヴァーディアンのダンジョンに行きたいらしい。多分、元聖女であるソフィアさんが残した〈妹〉という言葉が気になってるんだろうね。でも、ソフィアさんは「いつか」って言っていたと思うけど。今じゃなくてもいいんじゃないかなと思うわたしは薄情なのかな?
「わかった。ついてく」
「えっ? ついてきてくれるんですか?」
「ん」
ノーアはついてくるみたいだ。流石に今のはわたしにもわかった。アルトは少しだけ嬉しそうにしている。だけどわたしはまだノーアのことを信用してないからね?
「準備」
「そうですね。お願いします」
「任せる」
はい。またわからない。誰か早くノーア語翻訳機を誰かが開発してくれないかな?
<〈天の声〉の要請を受諾。副技〈天啓〉をアップデートします>
ん? またなんかやらかした?
刑吏と執行人は驚きと共に刑の執行を中断し、広場の観衆も一瞬の出来事に呆然としている。
エルモン異端審問官は驚きの表情でノーアを見つめていた。
ちなみにアルトもノーアを見開いた目で見つめている。
うん。わたしも驚きたいよ! でも今はこの状況をどうするかを考えないと。
『考えてたセリフどうする?』
『……一応言います』
アルトはノーアに抱かれながら、もともと用意していた異端審問官の悪事を暴露する。
「ここにいるエルモン異端審問官はぼくを貶めるために偽物の伝記書を捏造しました! ぼくは(証拠がないから)無実です! この聖なる剣を見てどちらが正しいのか皆さんが判断してください!」
うん。本来はアルトが刑の執行を止めて唖然としたところに悠然と聖剣をかざしながら話すためのセリフだからね。ノーアに抱えられてる状況だと場違い感が半端ないというか説得力がないというか……。あと、アルトさん。ホーリーレイヴァント出すの忘れてます……。
……でも、一定の効果はあったみたいだね。エルモンを疑問視する目線がちらほらと見える。作戦は半分成功、半分失敗ってところかな?
横ではエルモンが立ち直ったみたい。「やつを捉えろ! 逃すな!」と大声で怒鳴り上げている。あっ。刑吏も正気を取り戻した。アルトとノーアに迫ってくる。ノーアは刑吏たちの攻撃を弾き返して姿をくらました。
抱えられてるアルトは見えるけどノーアは見えない。だが周りを見るとアルトも見えていないようだ。皆狐に包まれたような顔をしている。
……多分だけど〈隠密〉副技、〈気配遮断〉〈隠蔽〉を使ったのかな?
あ、ノーアも見れるようになった。あれ? でも見えるようになったのなんでだろう?
◇◇◇
ノーアはアルトを抱えながらエーテルウッドの街の外壁を抜けた。門番たちはノーアとアルトを認識できていないようで目の前を通っても全く見向きもされなかった。もしノーアが暗殺者になったら百殺百中なんじゃないかな? うん。ちょっと寒気がするね。
今、アルトはノーアから降ろしてもらい、街道をエーテルウッドとは反対方面に駆け足で進んでいる。
「助けてくれてありがとうございます」
「ん」
「どうしてぼくを助けてくれたんですか」
「独断」
「独断、ですか?」
「魔滅派の陰謀」
「そうなんですね」
「あと緑の結晶球」
「なるほど」
わたしはいまだにノーアの喋る言葉、言ってしまえばノーア語が理解できない。アルトが後から解読してくれたところによると、偽の証拠をでっち上げてアルトを貶めようとしたのはハモニス教会の中でも魔滅派という、全ての魔人族を根を絶やしにすることを掲げる派閥の陰謀だったらしい。
魔滅派は魔王が使う冥魔法をことさら敵視しており嫌疑だけでも処刑したほうがいいと言い張っているのはこの派閥のようだ。
エーテルウッドは魔滅派の一派がほとんどを占める街で、そこの異端審問官であるエルモンがアルトの処刑を強行したらしい。アルトが王都まで連れて行かれずエーテルウッドで早急に処刑されそうになったのもそれが理由なのかな?
また、ウッドランドドラゴンから取り出した緑の結晶球も理由の一つみたい。なんと緑の結晶球はこれまでで一度も見つかったことがなく、それが持つ植物の生命力や成長を促進する力を接収して教会内で使いたいという理由で、所持者のアルトが邪魔になったんだとか。
うん。あれだけの言葉でなんでアルトはノーアの喋ったことを理解できるのかな? わたしは不思議だよ。
「ぼくは勇煌派」
「そうなんですね」
「〈全剣技〉、聖魔法も勘案すべき」
ノーアは勇煌派という勇者を重視する派閥に属してるらしい。アルトの持つ〈全剣技〉と発現した聖魔法。どちらも勇者にゆかりのあるものだ。
冥魔法はハモニス教会の教義としては悪だが、実を言うとそれを処罰する国の法はない。まあそもそも冥魔法を発現した人族はアルトが初めてらしいから法を作るまでもなかったと言うのが正しいらしいけど。しかし教義として悪であることは変わらないためハモニス教会の裁量でアルトへの処遇が決まったらしいが、本来なら〈全剣技〉、聖魔法のことも勘案して判断すべきなのだとか。しかし今回アルトは冥魔法の行使のみに焦点を当てられて処罰が下されている。しかもまだ冥魔法を使ったことも疑惑の段階だ。
そして今回の魔滅派の強行に疑問を持ち、アルトをさらうことで割って入ることにしたみたいだ。あ、これもアルトが翻訳したやつだよ。
「国外へ行く」
ノーアは国外への逃亡を勧めているようだ。隣にあるべトール連邦ではハモニス教ではなく別の、創造神を信仰する国があるようで、そこに行けばもしハモニス教会が今回の件でアルトを処罰しようとしてきたとしても手を出せなくなる可能性が高いらしい。
「いえ。ぼくはヴァーディアンのダンジョンに行こうと思ってます」
「なぜ?」
「お母さんがぼくの妹を救うために必要だって言ってました」
だがアルトはヴァーディアンのダンジョンに行きたいらしい。多分、元聖女であるソフィアさんが残した〈妹〉という言葉が気になってるんだろうね。でも、ソフィアさんは「いつか」って言っていたと思うけど。今じゃなくてもいいんじゃないかなと思うわたしは薄情なのかな?
「わかった。ついてく」
「えっ? ついてきてくれるんですか?」
「ん」
ノーアはついてくるみたいだ。流石に今のはわたしにもわかった。アルトは少しだけ嬉しそうにしている。だけどわたしはまだノーアのことを信用してないからね?
「準備」
「そうですね。お願いします」
「任せる」
はい。またわからない。誰か早くノーア語翻訳機を誰かが開発してくれないかな?
<〈天の声〉の要請を受諾。副技〈天啓〉をアップデートします>
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