転生?いいえ。天声です!

Ryoha

文字の大きさ
上 下
7 / 96
── 1章 アルト編 ──

006.アルトの仲間?

しおりを挟む
 魔法使い風の女性がアルトに抱きついた。わたしはアルトと視界を共有視しているので顔が近い。

「アリアさん。離れてください」

 アルトがちょっと嫌そうに言った。興味本位でアルトの表情を覗いてみると不機嫌な猫のような顔をしている。こんな表情初めてみた。

「まあ。つれないわね。アルトが心配で門の前で待っていたというのに。て言うかあなた汚れてるじゃない! 何かあったの?」
「大したことじゃないです」

 アリアと呼ばれた女性はそこで抱擁を解くと、アルトの手を握って門のほうへ歩いて行こうとする。

「まあいいわ。こんなところにいるより早く門の中に入りましょ」
「手も繋がないでください」
「いいじゃない。減るもんでもないし」
「ぼくの精神力が減ります」

 プクッと顔を膨らませるアリアは仕方なくといった仕草で手を離した。アルトも可愛いがアリアもかなりの美女っぷり。仕草が似合っている。

 その後、門番に何かカードのようなものを見せると二人は門をくぐった。


 ◇◇◇


 今はエーテルウッドの街の中を歩いている。
 石畳のでできた道、木と石でできた建物、そしてそこかしこで見かける布がかけられた露天。
 いかにも異世界風というか、中世の街並みのような風景だ。

 興味本位で見渡していると鉄の首輪をはめられた人を見かける。奴隷のようだ。隣にいる人に怒鳴られながら荷物を運んでいる。
 いわゆる獣人とか亜人とかではない。普通の人だ。というよりもそもそもこの街で見かけるのは普通の人ばかりだね。この世界には獣人はいないのかな? 異世界転生の定番だけど。それともたまたま見かけてないだけ?

「それにしてもまた一人で街の外に出るなんて! 門番に聞いたときは肝を冷やしたわ。本当に心配したのよ? 危険な目合わなかった?」

 アリアがアルトに問いかける。今日は休みの日だってアルトは言っていたけど、アリアはわざわざ門の外で待っていたのかな? アリアはアルトに対して過保護なのかもしれない。
 けれどアルトはそんなアリアの優しさ?おせっかいさ?に素知らぬ顔のようだ。

「大型の魔物には出会いました。多分フォレストリザードだと思います」
「え? 大丈夫なの?」
「大丈夫でした。あれくらいのスピードなら逃げられます。少し戦ってみたんですけど短剣じゃちょっとむずかしそうだったので撤退しました」
「まず、なんで戦ってみたの?ってところからなんだけど、言っても聞かないんでしょうね。だからちょっと汚れてたのね」

 ため息をつくアリア。
 フォレストリザードというのは、アルトが遭遇した魔物のことみたい。

「それにしても、フォレストリザード、ね。ここら辺ではあまり見ない魔物ね。一応報告した方がいいかしら?」
「その方がいいと思います。おそらくぼくたちのパーティーに討伐依頼が出ると思いますけど」

「そうね。とりあえず冒険者ギルドに行きましょう。セイソンもおそらくそこで飲んでるでしょうし」

 アリアが両手を顔の前に広げて「飲んだくれには困ったものよ」、みたいな仕草をとり、首を横に振っている。

「ちょうどいいからノーアも呼んで今後の話をしましょう」
「そうですね」
「じゃあ早速行きましょうか」
「だから手を繋ごうとしないでください」
「けち!」

 アリアがまた手を繋ごうとしたみたい。懲りないやつだ。

 それにしても、アルトの口調がわたしと接している時よりちょっと硬い気がする。
 なんか理由でもあるのかな?

 ◇◇◇

「あ、着いたわね」

 着いたのは一見小さめのお城かと思われるような荘厳なイメージの建物だった。外壁は丈夫な石で築かれ、中央は木の扉で覆われている。その扉には剣と盾がクロスされたギルドの紋章が刻まれ、いかにも冒険者らしい雰囲気を漂わせていた。

 その扉をアリアが開くと、そこは賑やかで活気のある雰囲気が広がっている。そこかしこに置かれたテーブルにはおそらく冒険者であろうものたちが集まり、グラスを持ち、話で賑わっている様子が窺える。まるで酒場のようだ。

「おー。アリアとアルト。お前らも酒か?」

 テーブルの一角から大きな声が上がる。

「セイソン。あんたと一緒にしないで。魔物の報告よ」

 彼がセイソンらしい。短く整えられた髪に薄手の鎧を纏った大柄の男だ。横柄な振る舞いから勝ち気な性格が滲み出ている。

「魔物だぁ? またアルトが森に行ったのか? 懲りねーやつだな」
「休みの日に何をしようとぼくの自由のはずです」
「アリアが困ってんだろうが」
「いいのよ。わたしが勝手に心配しているだけなんだから。それよりノーアを呼んでおいてくれる? おそらく討伐依頼が出るわ」
「マジかよ。大物か?」
「アルトが言うにはフォレストリザードみたいよ?」
「ちっ! それは俺たちにしか討伐できねーな。おっけー。呼んでくるわ」
「ノーアは多分、宿屋よ」
「わかってるって」

 セイソンはのそりと立ち上がり扉の方へ向かっていった。

「わたしたちは報告に行くわよ。説明は任せていい?」
「大丈夫です」
「じゃあ行きましょう」

 酒場のような場所を抜けると、巨大な掲示板が壁際に広がる一角にある受付カウンターだった。受付嬢はにこやかに微笑みながらアルトたちを見つけて話しかける。

「いかがなされましたか?」
「先ほど街の北にあるグローヴの森で、ここら辺では見かけない大型の魔物を発見しました。フォレストリザードだと思われます。街道からは遠い位置にいたことと、動きがそんなに早くはなかったので問題はないかもしれないですが、いちおう念の為報告しておきます」
「ありがとうございます。フォレストリザードだとCランクの魔物ですね。ここら辺には現れない魔物のはずなんですが……。アークライトの皆さんで討伐可能ですか?」
「大丈夫よ。今日出会ったのはアルトだけだったからね。メンバー全員で戦えばそんなに苦戦しないんじゃないかしら」
「わかりました。では、〈アークライト〉の皆さんに依頼が出ると思います。明日の朝、またこちらへいらしてください」
「わかったわ」

 報告は終わったみたい。もっと色々聞かれるのかと思ったけど意外とあっさりだった。ちょっと拍子抜け。

「要件は以上でしょうか?」
「素材の買取をお願いします」

 そういって袋からツノを取り出す。

「キラーラビットのツノと魔石が5つずつとゴブリンの魔石が6つですね。合計で3600ニクルになります。ご確認ください」

 置かれたのは銀色の硬貨3枚と銅色の硬貨6枚だった。
 おそらくニクルと言うのが通貨の単位で、銀貨が3枚で3000ニクル、銅貨が6枚で600ニクルってことかな?

「ありがとうございます。要件は以上です」

 そう言うとアルトたちは受付嬢から離れ、セイソンが座っていた場所で腰を下ろした。


 ◇◇◇


「よう! 待たせたな」
「待たせた」

 日が暮れた頃にセイソンは女の子を連れてきてアルトたちに話しかけた。
 セイソンが連れてきたのは年齢がアリアよりは下、アルトよりは上だと思われる、ちょっと眠そうな表情の美少女だった。
 体にぴったりとフィットした長袖のチュニックとシンプルで動きやすいパンツスタイルがとてもよく似合っている。
 彼女がアルトの話に出ていたノーアみたいだね。

「きたわね。二人とも。やっぱりわたしたちに討伐依頼が出されるみたいよ。夕食がてら作戦会議をしましょう」
「むう。今日は休みって聞いてた」
「そうしたらノーアはずっと寝てるでしょ。ご飯食べなさい。奢ってあげるから」
「仕方ない。カレーで手を打つ」
「いつものね」
「ん」

 どうやらノーアは省エネ系みたいだ。というかカレーってこの世界にもあるんだね。異世界人とかいるのかな。

「アルトはどうする?」
「じゃあ、パエリアをお願いします」
「わかったわ。注文お願い! カレーとパエリアとカルボナーラひとつずつね!」
「はいよ!」
「んじゃ俺はステーキで」
「あんたの分は払わないわよ」
「なんでだよ!」
「男のくせに女に払わせる気?」
「くそ! しゃーねーな」

 そう言いながらセイソンはなんか言いたげな表情を見せている。いや、なんでこっち見るのよ。いやアルトを見てるんだろうけど。なぜアルトを見る?

「で、どうするんだ? 確かフォレストリザードって一度倒したことあるよな?」
「そうね、フォレストリザードは燃えてる間は外皮が柔らかくなるから私の火魔法で外皮を脆くさせて、セイソンとノーアにトドメを刺してもらったわ」
「じゃあ、今回も同じ方法でいくか?」
「ダメね。今回フォレストリザードがいるのは森の中でしょ? 火魔法を使うと森が延焼する可能性があるわ。あまり、森を燃やすのはどうかと思うのよ」
「そうか……。なら誘い出すか」
「誘い出すってどこに?」
「森のはずれに崖になってる部分があっただろ。そこだったら延焼を気にせず戦えるんじゃないか?」
「……セイソンにしては考えたわね」
「俺にしてはってどう言うことだよ!」

 そこでアルトが手を上げた。

「どう誘い出すつもりですか?」
「そこはアルトが──」
「危険よ! それにそういうのはノーアの方が適任だわ!」
「大丈夫だろ。確かにノーアの方がうまくやれるだろーが、戦闘面でもノーアの方が使える。戦いにだってアルトじゃまだあまり役に立たねえ。適材適所だろ。つーかアリアはいちいちアルトに対して過保護なんだよ」
「だけど」
「ぼくもセイソンに賛成」
「ノーアまで!」

 声を荒げるアリアにノーアは嗜めるように言った。

「アルトはやわじゃない」
「でもアルトはまだ12歳、祝福を受けて1ヶ月も経ってないのよ」
「アルトならできる」

 反論しようとするアリアにノーアが見つめて言った。眠そうだった目を見開いている。その瞳には強い意志が込められている気がした。

「……そう、ね。アルト。任せていい?」
「大丈夫です。任せてください」
「危なかったらちゃんと逃げるのよ?」

 アリアが心配そうにアルトを見た。

「よし決まったな? 飯も来たみてーだしさっさと食って、さっさと寝よーぜ?」
しおりを挟む
ツギクルバナーカクヨムバナー
感想 1

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

やさしい魔法と君のための物語。

雨色銀水
ファンタジー
これは森の魔法使いと子供の出会いから始まる、出会いと別れと再会の長い物語――。 ※第一部「君と過ごしたなもなき季節に」編あらすじ※ かつて罪を犯し、森に幽閉されていた魔法使いはある日、ひとりの子供を拾う。 ぼろぼろで小さな子供は、名前さえも持たず、ずっと長い間孤独に生きてきた。 孤独な魔法使いと幼い子供。二人は不器用ながらも少しずつ心の距離を縮めながら、絆を深めていく。 失ったものを埋めあうように、二人はいつしか家族のようなものになっていき――。 「ただ、抱きしめる。それだけのことができなかったんだ」 雪が溶けて、春が来たら。 また、出会えると信じている。 ※第二部「あなたに贈るシフソフィラ」編あらすじ※ 王国に仕える『魔法使い』は、ある日、宰相から一つの依頼を受ける。 魔法石の盗難事件――その事件の解決に向け、調査を始める魔法使いと騎士と弟子たち。 調査を続けていた魔法使いは、一つの結末にたどり着くのだが――。 「あなたが大好きですよ、誰よりもね」 結末の先に訪れる破滅と失われた絆。魔法使いはすべてを失い、物語はゼロに戻る。 ※第三部「魔法使いの掟とソフィラの願い」編あらすじ※ 魔法使いであった少年は罪を犯し、大切な人たちから離れて一つの村へとたどり着いていた。 そこで根を下ろし、時を過ごした少年は青年となり、ひとりの子供と出会う。 獣の耳としっぽを持つ、人ならざる姿の少女――幼い彼女を救うため、青年はかつての師と罪に向き合い、立ち向かっていく。 青年は自分の罪を乗り越え、先の未来をつかみ取れるのか――? 「生きる限り、忘れることなんかできない」 最後に訪れた再会は、奇跡のように涙を降らせる。 第四部「さよならを告げる風の彼方に」編 ヴィルヘルムと魔法使い、そしてかつての英雄『ギルベルト』に捧ぐ物語。 ※他サイトにも同時投稿しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

孤高の英雄は温もりを求め転生する

モモンガ
ファンタジー
 『温もりが欲しい』  それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。  そんな願いが通じたのか、彼は転生する。  意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。  周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。  俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...