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第十章 永遠の幸せ
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「ちょっ、尚!?どうしたの?」
弾かれたように立ち上がる私の腹部に尚の視線が降りてくる。
その瞬間、ベンチの後ろにあった木の傍からこちらに歩み寄る黒い影が目についた。
「よく俺がいると分かったな」
北斗さんが私たちの元まで歩み寄る。
「やっぱり……か」
「尚から電話があったあと、北斗さんに連絡したの」
もう北斗さんに隠し事はしないと約束した私は、思い切って彼に相談したのだ。
『会う必要などない』と突っぱねると思ったものの、意外にも彼は『会いに行ってやれ』と私の背中を押してくれた。
きっと、今も尚のことが心配でたまらない私の心情を勘の良い彼に悟られていたに違いない。
「久我さん、俺……萌音を試すために一人で来てって伝えたんです。今までの萌音なら俺のワガママを絶対に聞いてくれたから。なによりも俺を優先してくれたから。でも、今はもう違うんですね……。俺もそろそろ姉離れしようと思います」
尚は穏やかな表情で言った。
血の繋がりはなくても、私たちは姉弟として長い時間を共に過ごした。
ふたりで過ごした楽しかった日々が蘇り、胸が締め付けられる。
「今から自首します。犯した罪を全て償って、一からまたやり直します」
決意を込めた口調の尚にポロリと涙が溢れて、頬を伝う。
「萌音に会うのは今日で最後だよ。お腹の子、久我さんとの子でしょ?元気な赤ちゃんを産んでね」
「うん……」
私が頷くと、尚は北斗さんに視線を向けた。
「萌音をよろしくお願いします」
「ああ。任せておけ」
深々と頭を下げた尚に久我さんは名刺を差し出した。
「お前は萌音の弟だ。なにかあれば、いつでも連絡しろ。仕事ぐらい振ってやる」
「……ありがとうございます」
尚は涙を堪えて御礼を言い、背中を向けて歩き出す。
「――尚!」
呼び止めると、尚がゆっくりと振り返った。
「尚はずっと、私の大切な弟だよ」
その言葉に、尚は固かった表情を緩めてこくっと小さく頷く。
「うん。姉さん、またね」
尚の目から大粒の涙が溢れ出す。それを拭うと、尚は軽く手を上げて公園を去っていった。
「北斗さん、尚のことありがとうございます」
「いいんだ。血は繋がらなくても、萌音の大切な弟なんだろう?」
「……はい」
尚なら大丈夫だ。きっと自分の罪を償って更生してくれる。
私はそんな願いを込めて彼の背中を見送ったのだった。
それからは怒涛の日々が待っていた。
一足先に籍だけは入れていたものの、結婚式はまだだった。
そして、大安吉日。式は神前式で厳かに行われた。
紋付羽織袴に身を包んだ彼の勇ましい姿に式の間中、私はドキドキと胸を高鳴らせていた。
白無垢の私は親族杯の儀でお神酒を飲み干した……ふりをした。私は妊婦の身。
北斗さんに「口をつけるだけにしろ。絶対に飲むな」と口酸っぱくして言われたのでその通りにした。
式を終えると、久我家のお屋敷で親族や親しい人たちが集まって宴が開かれた。
たくさんの人に祝福され喜びに満たされるとともに、久我家の一員になるのだと身の引き締まる思いだった。
弾かれたように立ち上がる私の腹部に尚の視線が降りてくる。
その瞬間、ベンチの後ろにあった木の傍からこちらに歩み寄る黒い影が目についた。
「よく俺がいると分かったな」
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「やっぱり……か」
「尚から電話があったあと、北斗さんに連絡したの」
もう北斗さんに隠し事はしないと約束した私は、思い切って彼に相談したのだ。
『会う必要などない』と突っぱねると思ったものの、意外にも彼は『会いに行ってやれ』と私の背中を押してくれた。
きっと、今も尚のことが心配でたまらない私の心情を勘の良い彼に悟られていたに違いない。
「久我さん、俺……萌音を試すために一人で来てって伝えたんです。今までの萌音なら俺のワガママを絶対に聞いてくれたから。なによりも俺を優先してくれたから。でも、今はもう違うんですね……。俺もそろそろ姉離れしようと思います」
尚は穏やかな表情で言った。
血の繋がりはなくても、私たちは姉弟として長い時間を共に過ごした。
ふたりで過ごした楽しかった日々が蘇り、胸が締め付けられる。
「今から自首します。犯した罪を全て償って、一からまたやり直します」
決意を込めた口調の尚にポロリと涙が溢れて、頬を伝う。
「萌音に会うのは今日で最後だよ。お腹の子、久我さんとの子でしょ?元気な赤ちゃんを産んでね」
「うん……」
私が頷くと、尚は北斗さんに視線を向けた。
「萌音をよろしくお願いします」
「ああ。任せておけ」
深々と頭を下げた尚に久我さんは名刺を差し出した。
「お前は萌音の弟だ。なにかあれば、いつでも連絡しろ。仕事ぐらい振ってやる」
「……ありがとうございます」
尚は涙を堪えて御礼を言い、背中を向けて歩き出す。
「――尚!」
呼び止めると、尚がゆっくりと振り返った。
「尚はずっと、私の大切な弟だよ」
その言葉に、尚は固かった表情を緩めてこくっと小さく頷く。
「うん。姉さん、またね」
尚の目から大粒の涙が溢れ出す。それを拭うと、尚は軽く手を上げて公園を去っていった。
「北斗さん、尚のことありがとうございます」
「いいんだ。血は繋がらなくても、萌音の大切な弟なんだろう?」
「……はい」
尚なら大丈夫だ。きっと自分の罪を償って更生してくれる。
私はそんな願いを込めて彼の背中を見送ったのだった。
それからは怒涛の日々が待っていた。
一足先に籍だけは入れていたものの、結婚式はまだだった。
そして、大安吉日。式は神前式で厳かに行われた。
紋付羽織袴に身を包んだ彼の勇ましい姿に式の間中、私はドキドキと胸を高鳴らせていた。
白無垢の私は親族杯の儀でお神酒を飲み干した……ふりをした。私は妊婦の身。
北斗さんに「口をつけるだけにしろ。絶対に飲むな」と口酸っぱくして言われたのでその通りにした。
式を終えると、久我家のお屋敷で親族や親しい人たちが集まって宴が開かれた。
たくさんの人に祝福され喜びに満たされるとともに、久我家の一員になるのだと身の引き締まる思いだった。
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