上 下
69 / 93
第九章 重なる想い

しおりを挟む
「今思えば、一目惚れですね……。待ち合わせ場所に遅刻していった私を一切咎めなかったどころか、常に私を気遣ってくれましたよね。会話のリズムも合うし、なにより私はあなたと一緒にいて心穏やかでいられたし、楽しかったんです」
「萌音……」
「誤解しないで欲しいんですが、今まで生きてきて誰かと一夜限りの関係を結んだことなんてありません。自分でもいうのもあれですけど、真面目で頭は固い方なので。だけどあの日、私はどうしても久我さんが欲しかった……。うまく説明できないんですけど、本能があなたを求めていたんでしょうね」

こんなことを言うなんて恥ずかしい。だけど、今の自分の嘘偽りない気持ちを彼に届けたいと強く思った。

「ヤクザだと知っても、私の久我さんへの気持ちは一切変わりませんでした。だから、あの日のあと一週間連絡がとれなかったときは悶々としてしまって……。そこで、私は久我さんへの好意を自覚しました」

私の話を彼は小さく相槌を打ちながら聞く。

「でも、お店のことや黒岩のことがあって久我さんとはもう会わないと言って突き放そうとしました。でも、あのとき『断る』と言われて、本当は嬉しかったんです」

声が震える。

「私も……あなたが好きです。久我さんを愛しています」

ようやく自分の気持ちを伝えられた。
その瞬間、感情が込み上げてふいに涙が零れ落ちた。

「本当に……私なんかと結婚してくれるんですか?」

涙ながらに尋ねる私に久我さんはふっと微笑んだ。その笑みに胸が高鳴る。

「それは、俺のセリフだろ」
「違います。だって、久我さんみたいに素敵な男性の奥さんになれるなんて夢みたいで……」

彼は私の涙を指で拭う。


「ヤクザの妻になるが、それでもいいか?」
「うーん、それはよくわかりません。ただ、私は久我北斗の妻になりたいと思ってます。それではダメですか?」
「いや、その言葉だけで十分だ」

彼はそっと私の唇に優しくキスを落した。
二回目のキスは涙の味がして少しだけしょっぱい。

「萌音……、愛してる」

キスの合間に熱っぽく囁かれて喜びに打ち震える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺様な極道の御曹司とまったりイチャイチャ溺愛生活

那珂田かな
恋愛
高地柚子(たかちゆずこ)は天涯孤独の身の上。母はすでに亡く、父は音信不通。 それでも大学に通いながら、夜はユズカという名で、ホステスとして生活費を稼ぐ日々を送っていた。 そんなある日、槇村彰吾(まきむらしょうご)という男性が店に現れた。 「お前の父には世話になった。これから俺がお前の面倒を見てやる」 男の職業は、なんとヤクザ。 そんな男に柚子は言い放つ。 「あなたに面倒見てもらう必要なんてない!」 オレサマな極道の若と、しっかり者だけどどこか抜けてる女の子との、チグハグ恋愛模様が始まります。 ※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】獣欲な副社長はドライな秘書を捕まえたい。

花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 エタニティ賞受賞 皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。 ありがとうございます。 越智美琴(おちみこと)は元彼に「お前とのセックス、気持ちよくない」と言われたことをきっかけにセックスを探求し続けていた。とはいえ、相手はいないので玩具を使った一人エッチ。おまけに探求しすぎた結果、玩具でしか快感を得られない身体になってしまった。 そんなある日美琴は大事な玩具の入ったポーチを会社に忘れてしまう。慌てて取りに戻ったものの、副社長であり美琴の上司である蓮見慧士(はすみさとし)にポーチの中身がバレてしまった。 「黙っててやるから俺にも見せろよ」 そこからはじまった二人のオトナの関係。 昼間は上司と部下。 夜はセフレ。 しかし、セフレにしては距離感が近いような気がする。 「俺たちは俺たちの関係を作ればいい」 ドライな秘書×欲深な副社長 カラダから始まる愛欲強めのラブストーリー。

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

【第一部】没落令嬢は今宵も甘く調教される

真風月花
恋愛
大正浪漫の年の差ラブ+体格差の激甘イチャラブ。年の離れた旦那さまに激しく愛される女学生のお話。笠井翠子は父の負債のために、欧之丞に買われる。彼は翠子が通う女学校の担任だった。かつて心をいやしてくれた少女、翠子を家に迎えることが出来た欧之丞は、彼女を激しく溺愛しすぎてしまう。二人の甘美な日々を綴ります。※後半、サイドストーリーでヤクザ×女学生のじれじれの純愛があります。※【第二部】へと続きます。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

ドS上司の溺愛と執着 〜お酒の勢いで憧れの人に『抱いて』と言ってみたら離してくれなくなった〜

Adria
恋愛
熱心に仕事に打ち込んでいた私はある日、父にお見合いを持ちかけられ、大好きな仕事を辞めろと言われてしまう。そのことに自暴自棄になり、お酒に溺れた翌日、私は処女を失っていた。そしてその相手は憧れていた勤務先の上司で……。 戸惑う反面、「酒を理由になかったことになんてさせない」と言われ、彼は私を離してくれない。彼の強すぎる愛情表現と一緒に過ごす時間があまりにも心地よくてどんどん堕ちていく。 表紙絵/灰田様

処理中です...