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第九章 重なる想い

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「それなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか……!」
「すべての問題が解決したら話そうと思っていたんだ。それになにより、俺と萌音に繋がりがあると秋穂に知られたくなかった」
「どうしてですか?」
「俺たちが現れたときの秋穂の動揺ぶりを見ただろ?黒岩と俺たちが対立関係にあると知られたら正義感の強い秋穂が無鉄砲に動く可能性があった。それを避けたかったんだ」

久我さんは「すまなかった」と小さく頭を下げた。

「秋穂は久我家にとって待望の娘でな。両親の過保護のせいであの年までほとんど自由がなかった。だが、ある日『呉服屋でアルバイトをしたい』って言いだしたんだ。アイツは俺に似て一度言い出したら聞かない奴だ。両親が短時間ならという条件で秋穂のアルバイトを認めた」
「それがうちの呉服屋ですか?」
「ああ。仕事を始めてから秋穂は生き生きした顔をしていた。一緒に働く萌音を心から尊敬して、私も萌音さんみたいに強くて優しい女性になりたいって言っていたんだ」
「萌音ちゃんが、そんなことを……?」

胸がジンッと熱くなる。

「ああ。だから、あの日レストランで名刺をもらったとき、正直驚いた。特徴も一致していたし、秋穂の言っていたのは萌音だと分かった」
「そうだったんですね……」

そういえば、確かに久我さんは渡した名刺をまじまじと見つめながら「……この呉服屋で働いてるのか?」と尋ねた。

「不思議なことに俺たちは兄妹揃ってお前に惚れ込んでしまったようだな。……ああ、もうひとりいた。祖母もだ」

久我さんは困ったようにわずかに表情を緩めた。

「萌音」

彼は再び表情を引き締めて私の方へ体を向けた。

「竹政組のことでおまえが悩んでいたのは知っていた。だから、問題が解決したら言おうと思っていた」

力強い双眸が私を射貫く。

「俺はお前が好きだ。必ず幸せにすると約束する。だから、俺と結婚してくれ」
「久我さん……」
「おまえを抱いたあの日、俺はおまえを必ず幸せにすると決意した。ただ欲に負けて抱いたんじゃない。覚悟の上でお前と関係を持った。体目的ではない。分かってくれ」

淡々とした口調ながら、彼の本気が伝わってくる。
口下手で不器用な彼の言葉に愛情を感じて喜びで胸が震える。
彼が私を体目的で見ているとは思えなかった。だって、私を抱いたあの日以来、性的な接触を彼は一切してこなかった。

「久我さんの気持ちは分かりました。私もお話があります」

私は彼の目を真っすぐ見つめた。

「私、初めて会ったときからあなたに惹かれていました」

私の言葉に久我さんの固かった表情がわずかに緩む。
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