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第七章 新たな問題~久我北斗side~
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「確か、萌音の弟だったな」
「はい。あなたは久我さんですね。萌音になにか用でも?」
車を降りると、萌音の弟が敵意を剥き出しにして尋ねた。
身長は百七五センチほどだろう。それほど高くないが、スラリとした体型と小顔なのが相まってモデルのようにスタイルがいい。
血の繋がりがないせいか、萌音とはなにひとつ似ていない。
男の手にはコンビニの袋が握られていた。
「連絡が取れなくて心配でな。萌音は家にいるか?」
「ええ。実は、萌音から具合が悪いから店まで迎えに来て欲しいと連絡を受けたんです」
「そうか。それで、今の様子は?辛そうか?」
萌音は弱いところを隠そうとする。体調が悪いときでもこちらに心配をかけないようにと無理をして「大丈夫」と笑う。
「強がって無理をするだろうが、一度病院へ連れて行ってくれ。もしなにかあれば、俺に連絡を――」
「お断りします」
スーツの内ポケットから名刺入れを取りだそうとした手をぴたりと止める。
「あなた、萌音とは付き合ってないんでしょ?」
値踏みするような視線を向けられる。
「久我さんがなにをしている人なのかは知らないし、萌音に聞いても教えてくれませんでした。でも、身なりも良いし高級車を乗り回す金銭的な余裕もある。あなたのような人なら、萌音にこだわらなくても女性を選び放題でしょ。違いますか?」
「なにが言いたい」
血の繋がりはなくとも、萌音がこの男のことを大切に思っているのを知っている。
俺は感情を押し殺して尋ねた。
「萌音から手を引いて下さい」
「どうして弟のお前が姉のことにいちいち口を出すんだ」
「萌音と俺は血の繋がりがないんです。互いが望めば結婚だってできる。俺は萌音をひとりの女性として愛してるんだ。萌音だってきっと同じ気持ちだ」
得意げに胸を張る男に強烈な嫌悪感が沸き上がる。
以前、萌音のアパートを訪れたときに違和感を覚えた。弟が姉の部屋の合い鍵を無断で作るなんて到底考えられない。
しかもあの日、部屋の電気は点いていた。
留守ではないことを知っていながら、チャイムを鳴らすこともせず鍵を開けて部屋へ入ろうとしたのだ。弟とはいえ、プライバシーの侵害だ。
とてもではないが、正気とは思えない。
「今日だって、萌音はあなたではなく俺を頼ったんです。残念ですが久我さん、あなたの負けです」
勝ち誇ったような表情でフンっと鼻を鳴らす男を冷ややかに見下ろす。
「お前の考えは分かった。だが、俺はそんな話をするためにここへ来たわけじゃない。萌音が心配できたんだ」
「それって、負け惜しみですか?」
「そうじゃない。今は、俺と勝ち負けの話をしている場合じゃないだろ。俺なら愛する女が弱っていたら、一時も離れず傍にいてやりたいと思うが、どうやらお前は違うようだな」
「なっ……!あなたに言われなくてもそうしますよ!さっさと帰ってください!」
男は分かりやすく目を吊り上げて怒りを露にすると、逃げるように俺から離れていった。
「はい。あなたは久我さんですね。萌音になにか用でも?」
車を降りると、萌音の弟が敵意を剥き出しにして尋ねた。
身長は百七五センチほどだろう。それほど高くないが、スラリとした体型と小顔なのが相まってモデルのようにスタイルがいい。
血の繋がりがないせいか、萌音とはなにひとつ似ていない。
男の手にはコンビニの袋が握られていた。
「連絡が取れなくて心配でな。萌音は家にいるか?」
「ええ。実は、萌音から具合が悪いから店まで迎えに来て欲しいと連絡を受けたんです」
「そうか。それで、今の様子は?辛そうか?」
萌音は弱いところを隠そうとする。体調が悪いときでもこちらに心配をかけないようにと無理をして「大丈夫」と笑う。
「強がって無理をするだろうが、一度病院へ連れて行ってくれ。もしなにかあれば、俺に連絡を――」
「お断りします」
スーツの内ポケットから名刺入れを取りだそうとした手をぴたりと止める。
「あなた、萌音とは付き合ってないんでしょ?」
値踏みするような視線を向けられる。
「久我さんがなにをしている人なのかは知らないし、萌音に聞いても教えてくれませんでした。でも、身なりも良いし高級車を乗り回す金銭的な余裕もある。あなたのような人なら、萌音にこだわらなくても女性を選び放題でしょ。違いますか?」
「なにが言いたい」
血の繋がりはなくとも、萌音がこの男のことを大切に思っているのを知っている。
俺は感情を押し殺して尋ねた。
「萌音から手を引いて下さい」
「どうして弟のお前が姉のことにいちいち口を出すんだ」
「萌音と俺は血の繋がりがないんです。互いが望めば結婚だってできる。俺は萌音をひとりの女性として愛してるんだ。萌音だってきっと同じ気持ちだ」
得意げに胸を張る男に強烈な嫌悪感が沸き上がる。
以前、萌音のアパートを訪れたときに違和感を覚えた。弟が姉の部屋の合い鍵を無断で作るなんて到底考えられない。
しかもあの日、部屋の電気は点いていた。
留守ではないことを知っていながら、チャイムを鳴らすこともせず鍵を開けて部屋へ入ろうとしたのだ。弟とはいえ、プライバシーの侵害だ。
とてもではないが、正気とは思えない。
「今日だって、萌音はあなたではなく俺を頼ったんです。残念ですが久我さん、あなたの負けです」
勝ち誇ったような表情でフンっと鼻を鳴らす男を冷ややかに見下ろす。
「お前の考えは分かった。だが、俺はそんな話をするためにここへ来たわけじゃない。萌音が心配できたんだ」
「それって、負け惜しみですか?」
「そうじゃない。今は、俺と勝ち負けの話をしている場合じゃないだろ。俺なら愛する女が弱っていたら、一時も離れず傍にいてやりたいと思うが、どうやらお前は違うようだな」
「なっ……!あなたに言われなくてもそうしますよ!さっさと帰ってください!」
男は分かりやすく目を吊り上げて怒りを露にすると、逃げるように俺から離れていった。
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