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第二章 激しく交わる夜

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「そういえば、最近の呉服市場はどうなんだ?経営は厳しいんじゃないか?」
「感染症の影響でイベントや催事も再開されて売り上げも徐々に伸び始めましたが、経営は厳しいです。今月は閑散期なのでお客様もまばらで。なにより、昨年従業員が全員辞めてしまったのが大きな痛手になっています」
「全員?なにがあったんだ?」

会社の社長という立場の久我さんにとって、聞き捨てならなかったに違いない。

「原因は、父の後妻の継母です。従業員を物のように扱い、尊厳を傷付ける様なことを平気な顔で繰り返しました。みんなずっと我慢していたんです。でも、結局我慢の限界が来てしまったようで……。従業員には家族がいました。彼らを守ってあげられなかったのは、私のせいでもあります。本当に申し訳ないことをしました」

今の私には、辞めていった従業員がどこかで幸せに暮らしていることを願うことしかできない。

「それは、おまえのせいじゃない。辞めていった従業員も、きっとおまえの辛い胸の内を分かっているはずだ」

こんな風に誰かに弱音を吐くのは初めてだった。
私の言葉を肯定してくれた彼に胸がいっぱいになる。

「出過ぎたことを言うが、その継母の存在が店にいい影響を与えるとは思えない」

この人なら、という予感があった。私の話を聞き、解決法を見出してくれるような気がした。
私は改まって背筋を伸ばした。

「久我さんに聞いてほしいことがあるんです」
「ああ」

小さく頷いた彼に私は続ける。

「うちの呉服屋は大通りに店を構える老舗店ですが、外から店内の様子を伺えるよう配慮した庶民的な店です。地元の人や若い人にも喜んでもらえるように、手ごろな値段設定にしています。なので、私が子供の頃から知っている顔なじみのお客様が今もたくさんいます。私は先代からの伝統を大切にしたいと考えています」

優雅にコーヒーを嗜みながら、久我さんは黙って相槌を打つ。

「でも、継母は私とは正反対の考えを持っていて……。儲け重視のやり方でお客様に無理な勧誘をしているんです。それだけでなく、最近は店を売ろうと躍起になっていて」

こんなことを久我さんに話したところで困らせると分かっていた。
けれど、このことが原因で最近は眠れないぐらい悩んでいた。
自分だけの力ではどうにもできず、誰かに話を聞いてほしいと思っていたのだ。

「店を売ろうとするのには、なにか理由があるのか?」
「去年、継母に恋人ができたんです。その人が……――」

私は周りにウエイトレスなどがいないことを確認して、声を押し殺して伝えた。
「実はヤクザの幹部らしくて。その男性と付き合い始めてから、継母は店を売るように私にせがむ様になったんです。もしかしたら、そのヤクザになにか吹き込まれたのかもしれません。私は父から継いだ店を守りたいんです」

彼の目が途端に鋭くなる。
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