上 下
86 / 92
第六章

13

しおりを挟む

「今日は本当にありがとう」

父が帰宅した後、私はリビングのソファに座る陽介くんの隣に腰かけてお礼を言った。
父に知り合いの精神科医を紹介し、さらに何かあった時はいつでも連絡をして欲しいと自身の連絡先まで伝えた。
彼にはいくら感謝してもし足りないぐらいだ。

「俺は何もしてないよ。お父さんとちゃんと向き合えた?」
「うん、陽介くんが隣にいてくれたお陰でいいたいことは言えたよ。それに、私がうまく伝えられなかった部分を陽介くんがお父さんに伝えてくれたから」

昨晩、陽介くんと私は今日のことを事前に話し合った。
父との完全なる決別を望んではいなかったものの、モラハラをやめさせるのは非常に難しい。
もしも話し合いの場で、父が過去を悔い改める態度を見せなければ今日を最後に二度と父とは会わないと決意していた。
けれど、意外なことに父は自身の非を認めて謝罪した。
その父の姿に私は心を動かされ、関係を再構築する道を選んだ。

「時間はかかるかもしれないけど、お父さんとの関係がさらに良くなればいいね」

彼の優しさに熱い感情が込み上げてくる。

「……ありがとう。陽介くんがいてくれてよかった。ほんと、大好き」

私は彼の腰に腕を回して、甘えるように抱き着いた。
彼の胸に頬を押し付ける。トクントクンッと一定のリズムを刻む心臓の音が心地よく鼓膜を揺らす。

「実はここ最近、結乃がお父さんのことで悩んでる姿を見てたから、そっとしておいてあげようって色々我慢してたんだよね」
「うん」

愛し気に私の髪を撫でつける彼の指が心地よくて、うっとりと目を細める。

「結乃不足で今にも爆発しそうなときにそんな可愛いこと言われたら、さすがに抑え利かなくなるよ?」

私は顔を持ち上げて彼を見つめた。

「ごめんね。でも、もう抑えなくていいよ。私も陽介くんと愛し合いたい」

彼は伏し目がちに私を見つめて、親指で私の唇に触れた。
そのまま優しくなぞられて、彼と肌を合わせた感覚が蘇り、身体の芯に灯りがともる。

「結乃ってさ、ホント俺を煽るのうまいよね。可愛すぎて死にそうなんだけど」

彼はやれやれという笑みを浮かべ、私をソファに押し倒した。
早急に唇を強く押し付けられて、口内に舌を差し込まれる。
ねっとりとした彼の舌の動きに理性をあっという間に奪われる。

「んんっ……ふぅ」

腰がゾクゾクと震えて、視界がじんわりと滲む。
彼を求めるように私は首に腕を回す。
彼のキスはどうしてこんなに甘くて気持ちがいいんだろう。
痺れるような気持ちの良さに陶酔してしまう。
私は今までにないぐらい積極的に舌を差し出す。彼はそれを喜ぶように舌を絡めて、私の舌を掬い取る。

一度唇が離れる。私はさらなるキスをねだるように自ら唇を重ね合わせた。
それに応えるように陽介くんは私の首の後ろを手のひらで支えて、貪るように私の唇を蹂躙する。
互いの息遣いが荒くなり、本能のまま情熱的な口づけを交わす。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。 生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。 行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。 そしてそんな妻を愛してやまない夫。 束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。 自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。 時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。 そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ ※現代もの ※R18内容濃いめ(作者調べ) ※ガッツリ行為エピソード多め ※上記が苦手な方はご遠慮ください 完結まで執筆済み

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...