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第六章
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しおりを挟む「早瀬さん、お見苦しいところを見せて申し訳ありません。これ、少しですが結婚祝いです」
父は祝儀袋をそっとテーブルの上に置いた。私は慌てて父の方に祝儀袋を押し戻す。
「もらえないよ」
「これぐらいしか今の俺にしてあげられることはないんだ」
もらうもらわないで、私たちは押し問答を繰り返す。
「お聞きしたいことがあります」
すると、ずっと黙って話を聞いていた陽介くんが口を開いた。
「ええ」
「あなたが結乃さんに会いに来た本当の理由は、それを渡すためだったんじゃありませんか?」
陽介くんは祝儀袋に目を向けた。
「結乃さんが結婚していることを知ったあなたは、結婚祝いを渡そうと考えた。けれど、喫茶店で渡すタイミングが掴めず、後日改めて渡す為に結乃さんに連絡先を伝えた」
先程の『愛情はあった。それを示せるのは、金しかなかったんだ』という父の言葉が蘇る。
「……おっしゃる通りです」
父は小さく頷いた。
「やはりそうでしたか。それから、もうひとつ。以前、結乃さんがお母さんの月命日にお墓参りに来てくれている人がいると言っていました。それは、あなたではありませんか?」
まさか。そんな……。ずっと母の友人だとばかり思っていたのに。
弾かれたように父に視線を向ける。
「……ええ。言い訳に聞こえるかもしれませんが、別れた後もずっと彼女を愛していました。だから、せめてもの償いに、月命日に花を手向けているんです」
うな垂れる父に、私は驚いて目を見開いた。
「これは私の憶測ですが、あなたは結乃さんとお母さんにしていることが悪いことであると自覚していたんではありませんか?」
陽介くんが核心を突く。父は小さく息を吐きだして、観念したように小さく頷いた。
「あの頃の私は職場での人間関係に悩まされていました。毎日のように上司から理不尽に罵られて、貶されて……。その鬱憤を家庭で晴らしていたんです。当時はそれをモラハラと呼ぶとは知りませんでした。一度だけ、妻に言い返されて頭に血が上り、彼女に手を上げそうになったことがありました。そのとき、私の方から離婚しようと切り出しました。怖かったんです……。これから先、自分の感情をコントロールできなくなり、家族に手を出してしまうことが」
父の目が涙で潤む。決して涙を流すまいと奥歯を噛みしめ、必死に耐えている。
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