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第六章
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しおりを挟む「――秋月さん!」
「はっ」
自然と息を止めていた。
名前を呼ばれて我に返った私は、大きく息を吸い込んだ。
「あぁ……はい。す、すみません……」
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
関さんが心配そうに私を見つめる。」
「はい……、大丈夫です」
私はできる限りの笑顔を浮かべて答えた。
「もうすぐ定時だし、今日はもう帰った方がいいわ」
「そうさせてもらいます……。この書類だけ副社長に渡したら帰りますね」
関さんは私のデスクまで回り込み、書類をさっと手に取った。
「私が渡しておくから、今日はゆっくり休みなさい?」
「すみません……。ありがとうございます」
お礼を言って席を立つ。重たい足を必死に動かして私は秘書課を後にした。
約束通り父の待つ喫茶店に辿り着いた私は、意を決して店に入った。
「約束をしているんですが」
「お連れ様がお待ちです。こちらへどうぞ」
店員の後を追う。一番奥の二人掛けの席に父はいた。
テーブルの上のホットコーヒーに目を向け「同じものを」と店員に頼み、父の向かい側の席に腰を下ろす。
「結乃、久しぶり。しばらく会わない間にずいぶん立派になったな」
「手短にお願いします。今日はなんの用でしょうか?」
「ずいぶん他人行儀だな」
父は眉間に皺を寄せる。しばらく会っていない間に、ずいぶん痩せたようだ。
以前は真っ黒だった髪は白髪交じりになり、口元や目尻には深いしわが刻み込まれくたびれた印象を受ける。
タイミングよくホットコーヒーが運ばれてきた。
途端、父は「ああ、どうもありがとう」と店員に柔和な笑みを浮かべてお礼を言う。
その態度に父が昔と変わっていないことを瞬時に悟る。
父は他人から自分がどう見られているかを常に気にしていた。
だから、良い人であり、良い夫であり、良い父親を演じた。
人前では常に笑顔で機嫌がよく、相手に対する気遣いや優しさも怠らない。父を知る人は皆「あんなに良い人はいない」と繰り返す。
けれど、それは他人にだけ。父は家族である私と母には高圧的な態度で接し、支配下に置いた。
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