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第六章
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しおりを挟む私と陽介くんは晴れて正式な夫婦となった。
婚姻届の証人欄は親友の奈々に書いてもらった。
あの日、奈々が強引に私をクラス会に誘ってくれていなければこうして陽介くんに会えることはなかっただろう。
号泣しながら「おめでとう!」と祝福した後、奈々は涙と鼻水をずびーっと音立ててタオルでかんで目を輝かせた。
「結婚式には絶対に読んでね。ハイスぺまみれの結婚式で陽介くん以上のハイスぺイケメンをゲットしなくちゃ!」
と鼻息を荒くする奈々に笑ってしまった。
私たちの入籍話は一斉に社内で拡散された。
他部署の独身女子たちはひどく落胆し、社内の空気はどんよりと重くなり地獄絵図だったと聞いた。
一方、秘書課のみんなは意外にもリアクションが薄かった。というのも、副社長である陽介くんが私に片思いをしているという噂が流れていたらしい。
その理由を関さんに尋ねると、「だって、副社長の秋月さんを見る目つき、分かりやすかったもの。目尻が下がって、トロンッてしてて。好きだ!っていう気持ちが前面に押し出されてたから」と言われた。
私にはよく分からなかったけれど、秘書課のみんなは納得したように頷いていたからそうなのかもしれない。
あれから、早瀬専務は背任行為で専務取締役を解任された。さらに九州に異動を命じられ平社員として再出発を果たすことになった。
八乙女商事は裏金や帳簿改ざんなどの様々な問題が世間に知れ渡り、八乙女社長が逮捕される事態に発展した。
娘の茜さんはマスコミから追いかけ回され、モデル業どころではなくなりホテルを転々とする生活を送っているらしい。
私は彼のマンションに引っ越し、幸せな結婚生活を送っている。
今は四月の年度初めということもあり、仕事は山のようにある。
新たな事業を始動させた陽介くんは、過密スケジュールを必死にこなしている。
私は彼を支えることになによりの幸せを感じていた。
この日、仕事を終えた私は腹部に痛みを抱え、身体を引きずるようになんとか家まで辿り着いた。
気休めに薬箱から取り出した鎮痛剤を飲む。
「いたたっ……はぁっ……」
生理痛は人より重い方だ。吐き気を伴うほどの強烈な腹痛に、額には脂汗が浮かぶ。
お腹をギリギリとねじられるような鈍痛に襲われながらも、私は洗面所へ向かい、乾燥機つき洗濯機から洗濯物を取り出して綺麗に畳む。
その後、休む間もなく部屋の掃除を始める。彼が帰ってきたらすぐに夕飯を食べられるように食事の準備もしておきたい。
けれど、あれこれやろうとしても、痛みで体が思うように動かない。
低いうめき声をあげて腹部を擦りながら顔を歪めていると、玄関扉が開く音がした。
「陽介くんだ……」
予想以上に早く帰宅した彼を出迎える為に、玄関に向かう。
「おかえりなさい」
彼に声をかけた瞬間、ズキンッと鈍い痛みが腹部に走った。
「……っ」
思わず苦悶の表情を浮かべると、彼はいち早く私の異変に気が付いた。
「顔が青い。どこか具合が悪いの?」
彼は玄関先で靴を脱ぎ捨て、心配そうな表情で私の身体を支えた。
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