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第五章~早瀬陽介side~
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しおりを挟む欠席の連絡をしていたにも関わらず、白洲さんに無理を言って仕事調整してもらい、居酒屋へ向かった。
駐車場から居酒屋まで無我夢中で全力疾走し、扉を開ける。
そこには結乃がいた。十年ぶりに結乃を見た途端、心臓が音を立て、燻っていた恋心に再び火が付いた。
「陽介なら相手は選び放題だったでしょ?それでも、十年間、一途に愛を貫くなんてすごいね」
「俺には後にも先にも結乃しかいないんです。それぐらい惚れています。だから、俺のことで彼女を巻き込んで傷付けようとした専務を許すことはできません」
「ははっ、惚気るねぇ。なんでも悔しいぐらいそつなくこなす陽介が、秋月さんのこととなると途端に余裕を失くすんだね。愛されてるなぁ、秋月さん」
白洲さんはクスクスと笑い、俺にある物を手渡した。
「それと、これ。頼まれてたもの」
「ありがとうございます」
「本気で専務とやり合う気なんだね?」
「はい。社長が俺と専務のどちらを受け入れるかは分かりませんが、どんな結果であろうと後悔はしません」
「そっか。俺はいつだって陽介の味方だから。いざとなったら、頼ってね」
白洲さんの言葉に背中を押される。
「じゃあ、お言葉に甘えて。白洲さんに頼みたいことがあるんですが……」
十八時。予定通り社長室に集まる。応接テーブルには俺と社長と向かい合うように、早瀬専務と八乙女茜が座った。お茶を出した白洲さんが頭を下げて出て行く。
俺と目が合うと、白洲さんは頑張れというように目で合図を送って小さく頷いた。
「陽介、それで話というのは?」
いの一番に話を切り出したのは、継父である早瀬社長だった。
身体のラインにフィットした皺ひとつないオーダーメイドスーツを着こなす社長。
六十歳には見えない艶やかな黒髪とはつらつとした自信に満ちた表情。
他人に厳しく、自分にはさらに厳しい。仕事以外もストイックで、出会った頃からずっとスリムな体型を維持し続けている。
「はい。実は、結婚したい女性がいます」
俺の言葉に、目の前にいた専務と八乙女茜が目を見合わせて笑顔を浮かべる。
彼女に至っては、ギラギラとした熱烈な視線を投げかけてくる。
谷間を見せつけるかのように胸元がざっくりと開いた丈の短いワンピースを着ている。
彼女は自分の容姿に絶対的な自信を持っている。わざとらしく体を見せつけられて目のやり場に困ると同時に、嫌悪感を覚える。これはれっきとした逆セクハラだ。
ここ数年、彼女からの執拗なアプローチが続いていた。
早瀬専務を通してだけではなく、個人的な誘いを何度となく受けた。
毎回ハッキリ断っていたものの、彼女の諦めは悪かった。
『陽介さんは絶対、私のことを好きになるから』と自信満々に言われて、鳥肌が立った。
ようやく俺を落とせたことを喜んでいるのか、今にもテーブルを飛び越えて抱き着いてきそうな勢いだ。
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