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第三章
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しおりを挟む「もう少しだけこうしてたい」
「私も」
温かな彼の体温に包み込まれて心穏やかな時間を過ごす。
すると、ふいに彼が尋ねた。
「部屋の中、寒い?」
「ううん、大丈夫、ちょうどいい」
不思議なぐらいに快適な室温だ。昨日だって、まだ水滴のついている体で廊下を移動したのに寒さを一切感じなかった。
「陽介くんの家って全然寒くないね。玄関も暖かかったし」
「このマンション、全館空調がついてるから。家の中の温度はいつも一定に保たれてるんだ」
「なるほど。うちのアパートは古いし隙間もあるから、家に帰ると凍えるような寒さだよ」
笑ってもらえるかなと思ったものの、彼の反応は薄い。
「あのさ」
すると、彼は私の身体から腕を離して寝台横のサイドチェストに手を伸ばす。
私も彼と同じようにベッドにうつぶせになる。彼は真剣な表情でこちらを見た。
「突然だけど、この家で一緒に暮らさない?」
「え?」
「会社へも近いし、なにより寒くない。それに、俺が結乃と一緒にいたいんだ」
冗談なのか本気なのか分からずにいる私の手を掴み、手のひらの上にカードを置いた。
「これ、なに?」
それは、クレジットカードほどの大きさだった。
「この家のカードキー」
「陽介くん、本気なの?」
「本気じゃなかったらこんなことしない。もちろん無理にとは言わない。それこそ、四六時中一緒にいることになるわけだし」
彼が私の負担にならないように気遣ってくれているのが伝わる。
「私も陽介くんと一緒に暮らしたい。でも、今すぐは無理かな」
「……そっか」
私の言葉の意味を勘違いしたのか、ほんの少しだけ残念そうに目を伏せる。
「ち、違うの、そうじゃなくて。一緒に住むならうちにある物を減らさないといけないし、お引越しってなったら大家さんとか同じアパートの人にきちんとご挨拶もしなくちゃいけないから」
就職してからずっと住んでいたアパート。特に大家さんには、自宅の家庭菜園で採れた野菜をおすそ分けしてもらったりずいぶんとお世話になった。
「一緒に住むのが嫌ではない?」
「もちろんだよ!逆に私なんかと暮らしてもらっていいのって感じだよ」
慌てて付け加える。
「俺は結乃がいいんだ。とりあえず、それは結乃が持ってて。俺がいないときも暇なときはいつでも遊びにきてくれて構わないから」
「ありがとう、嬉しい」
彼の言葉に喜びが込み上げてきて、自然と頬が緩む。
彼はぐっと顔を近付け、こっちを向いてと言わんばかりにチュッチュッと私の頬にキスを落とす。顔を向けると、すぐに唇を奪われる。
「んっ」
彼のキスを受け入れた瞬間、彼は「あ、マズい」と呟いた。
「なにがマズいの?」
「勃った」
腰を掴まれてぐぐっと引き寄せられ、彼は私の胸元に顔を埋めて甘えたようにおねだりする。
「結乃、しよ?」
「え、今から?」
「大好きな彼女が裸でいて、興奮しない男なんていないだろ」
大好きな彼氏に求められて、拒める訳もない。
結局、この日も朝からぐずぐずに抱かれ、私は彼の愛をまざまざと身体中に刻み込まれた。
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