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第三章

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ディナーの時に渡そうとしていた彼へのクリスマスプレゼントを車内に置き忘れたのに気が付いた。
私は自分が思っている以上に、彼とのディナーに舞い上がって浮足立っているようだ。
自分だけもらっておいてお返しできない心苦しさを感じる。
けれど、彼はそんなこと一切気にしていない。
食事を終えると、彼は私の腰をぐっと引き寄せて耳元でそっと囁く。

「そろそろ二人っきりになりたい」

艶っぽく言われてドキドキする。
私が頷いたのを確認すると、彼はスマートに会計を済ませた。

「ご馳走様でした。ありがとう」
「どういたしまして」

エレベーターが到着して揃って乗り込む。彼はそっと私の手を握った。

「うちに行こう」
「……うん」

彼の熱が手のひらを通じて体中に広がっていく。
エレベーターを降りると、ビルの前には彼の車が止まっていた。
その傍らには小綺麗なスーツを着て白い手袋をはめた男性が立っている。

「飲酒運転になるから、あらかじめ頼んでおいたんだ」

彼は私の疑問に先回りして答える。後部座席に揃って乗り込み、私たちは彼の家へ向かった。

駅からほど近い一等地に彼のマンションはあった。
交通の便も良く高級なマンションや住宅が立ち並ぶ富裕層しか住めないエリアだ。
二十四時間有人管理された厳重なセキュリティのマンション。
天井の高い豪華絢爛なエントランスを抜けてエレベーター乗り込む。
向かった先は地上三十五階建ての最上階だった。

「入って」

玄関扉を開けると、ムスクの甘い匂いがした。
私の家とは比較にならいほどに広々とした玄関。壁にはセンスのいい高価そうな絵画が飾られている。

「お邪魔します」

おずおずと頭を下げてからヒールを脱ぎ、体の向きを変えて靴を揃え、隅に寄せる
奈々以外の人の家に遊びに行くのは久しぶりだし、その相手が彼氏である陽介くんということもありさらに緊張する。
付き合い始めてから二か月が経った今もなお、私は事あるごとにドキドキして、緊張してしまう。

「飲み物用意するから、適当に座ってて。なに飲む?まだ飲み足りなければ、お酒もあるけど」

上着を脱ぎキッチンに立つ陽介くんは、Yシャツの袖のボタンをとって腕まくりをしながら尋ねた。
彼はなにをしてもいちいち様になるから困る。これじゃ私の心臓がいくつあっても足りない。

「じゃあ、お水もらってもいい?」
「分かった」

広々とした廊下の先にある開放的なリビング。
南面の大きなガラス窓からはキラキラと輝く夜景が広がっていた。
ベージュを基調とした家具と緑色の観葉植物がやわらかく上品な印象を与える。

言われた通りに高級そうなソファに腰かけようとするも、どこに座ればいいのか躊躇ってしまうぐらい大きい。
ソファは大人が寝そべって足を伸ばしても余ってしまうぐらいの大きさだった。

「ふっ、なんでそんな隅っこに座ってんの」

ソファの端っこにちょこんっと座った私を見て彼がくしゃっとした笑顔を浮かべる。
仕事中も穏やかだし笑顔を見せることも多いけれど、それはどこか作られた笑顔に見えた。
まるで理想の早瀬陽介という人物を演じているように、まるで隙がないのだ。
だから、こうやって素の笑顔を見せてくれると、気を許してくれているんだと嬉しくなる。
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