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第三章
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しおりを挟む「仕事の方は大丈夫?」
「うん。でも、まだ覚えなくちゃいけないことがたくさんあるから、日々勉強中だよ」
「そっか。元々秘書業務をしたことがなかったとは思えないぐらいだって、白洲さんが褒めてたよ」
彼は優雅に赤ワインを嗜みながら言う。
「白洲さんはもちろんだけど、秘書課の先輩たちに助けてもらってばっかりだよ。早く会社に貢献できるようにならないと」
「慌てなくていいよ。ゆっくり自分のペースで大丈夫。それに、仕事はチームワークだから、困ったことがあったらみんなを頼った方がいいよ」
「そうだね」
その時、ふと先日の出来事が頭を過った。
「そういえば、陽介くんって八乙女茜さんを知ってる?」
彼女の名前を口にした瞬間、彼の表情がわずかに強張った。
けれど、すぐに元の柔らかい表情に戻る。
「どうして?」
「言いそびれていたんだけど数日前、会社の前で偶然会ったの」
「偶然?彼女は結乃を俺の秘書だと認識してたの?」
「ううん、それは違う。途中で早瀬専務がきたの。その流れで少し話したの」
私は、あの日の出来事を掻い摘んで話した。
「その時、私がすぐにポーチを拾わなかったばっかりに、気が利かないって茜さんを怒らせてしまったの。陽介くんとも繋がりのある人なのに、迷惑をかけてごめんね」
話を聞き終えた彼は感情を抑え込むようにぐっと奥歯を噛みしめた。
「いや、気にしなくていいよ。結乃が彼女にあれこれ言われる筋合いはないし、むしろ結乃を顎で使ったことを非難したいぐらいだ。今後、彼女と一切関わらないでいい」
「でも、早瀬商事と八乙女商事は深い関係にあるんだよね?」
「正確には、早瀬社長の弟である専務の早瀬二郎と八乙女社長がだ。二人は高校の同級生らしい」
「そうなんだ」
「彼女に変なことを吹き込まれなかった?」
「変なこと?」
彼の言葉に首を傾げる。特にそれと言った話は聞いていない。
「いや、ないならいいんだ。気にしないで。今後もしも早瀬専務と彼女になにかおかしなことを言われたら、必ず俺に報告して」
「うん、わかった」
ほんのわずかな違和感を覚えながらも私は素直に頷いた。
食後のデザートまで堪能してまったりとした時間を過ごす。
大好きな人とこうやって一緒にいられることの喜びを噛みしめながら夜景を眺めていたとき。
「結乃、こっち向いて」
ふいに彼に呼ばれて顔を向ける。
すると、隣に座る彼はこちらに膝を向けて正面から私の首に両腕を回した。
「え……?」
「メリークリスマス。俺からのプレゼント」
私の首元に輝くシルバーの繊細なネックレス。ネックレストップには、ダイヤモンドが眩い輝きを放っていた。
「仕事中も付けられるように華奢なデザインにしてみたんだけど、気に入ってもらえた?」
あまりの喜びに言葉に詰まり、唇を手のひらで覆う。
「結乃?」
私の反応に戸惑いを見せる彼。私は必死に言葉を絞り出す。
「陽介くん、ありがとう。私……嬉しくて胸がいっぱいで……それで……」
この上ない喜びに打ち震え、嬉し涙が滲む。
「結乃は泣き虫だな。でも、泣くほど喜んでもらえたなら嬉しい」
彼は目頭に浮かぶ私の涙をそっと拭ってくれた。
「来年のプレゼントも楽しみにしてて」
その言葉がさらに私の涙腺を刺激する。
来年も私と一緒にいてくれるんだと思うと、幸せが胸に染み渡る。
ひとしきり喜びに浸った後、私は自身の持ち物に視線を落とした。
彼にクリスマスプレゼントを渡すなら今だ。けれど、ハッとする。
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