【完結】ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました

中山紡希

文字の大きさ
上 下
45 / 92
第三章

しおりを挟む

奥の広々とした個室には洋服や靴が整然とディスプレイされている。
店内の商品も素敵だったけれど、この部屋の中にある物はさらに値の張るものだろう。
普段高い物は身に着けない私ですら、ここにあるどれもが洗練されていて高価な物であるとすぐに分かった。

「お好きなお色などございますか?」
「えっと、普段は黒とかベージュとか落ち着いた色の服ばかり着ています」

穏やかな笑みで尋ねられ、しどろもどろになる。

「左様でございますか。本日はディナーへ行かれるとお聞きしております。私からいくつかご提案させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい!そうしてもらえると、助かります」
「かしこまりました」

店員はテキパキといくつかのドレスや靴を選んでくれた。その中から気に入ったものを手に試着室へ入る。
淡いパープル色のロングワンピースを着て脇のファスナーを上げる。
けれど、サイズが小さいのかうまくファスナーを上げられない。
大きく息を吸って止める。その間にファスナーを上げようと体を左右に振って格闘するも、これ以上やればファスナーを壊しかねない。
私はやれやれと溜息を吐いて次のドレスに手を伸ばした。

何着か試着して、淡いピンクベージュのドレスに決めた。
柔らかなピンクベージュの裏地に、光沢のある刺繍入りチュールを重ねたエレガントなドレスだ。
それにシルバーのピンヒールと同色のハンドバッグを合わせた。

「とってもよくお似合いです!お客様は細グラマーな体型ですので、身体にフィットしたこのドレスは色っぽさが際立ちますね」

絶賛されて口元をモゴモゴさせる。
お世辞だと恥ずかしくなる気持ちがある一方で、褒められたことが素直に嬉しくて顔が自然とほころぶ。

「今回は特別にヘアメイクもさせて頂きます。こちらへどうぞ」

試着室を出て、大きなドレッサーの前に腰を下ろす。
芸能人のメイク部屋みたいに、鏡にはいくつものライトが灯されて顔を明るく照らし出す。

続けて先程の店員とは違うショートカットの女性が現れた。
どうやら彼女がヘアメイクをしてくれるらしい。
薄っすらしていたメイクをオフし、ベースメイクを塗られる。
プロの手つきに感心して、鏡を凝視する。
丁寧にメイクを施された私はまるで別人のようにキラキラと輝いて見えた。
髪は緩く巻き、ハーフアップにしてもらった。

「これが……私……?」

思わず鏡を食い入るように見つめて、顔を左右に振って横顔まで細かに確認する。
普段は薄化粧にしているものの、鏡の中の私は今すぐパーティに参加してもおかしくないほどに華やかなに仕上がっている。
指で触れた頬はきめ細かく、ファンデーションの香料なのかほのかに甘い香りまでする。

「とってもお綺麗です」
「ありがとうございます……!」

華美なドレスを着てメイクと髪型を変えたことで心が弾む。
自分でも単純だと思う。けれど、まるで魔法をかけられたみたいに気持ちも明るくなり、気分が上がる。
試着室のある部屋を出ると、陽介くんの姿があった。店内の商品を優雅に眺めている彼はまだ私に気付いていない。ドキドキと胸を高鳴らせながら彼に近付いていく。
どんな反応をするかな……?
コツコツと響くヒール音が私の緊張を刺激する。

「陽介くん、お待たせ」

声を掛けると、陽介くんが振り返った。彼は私の全身に視線を走らせて、目を見開く。

「今日の結乃はさらに綺麗だ」

店員がそばにいるにも関わらず、彼は恥ずかしがる様子もなくうっとりと私を見つめる。

「ヘアメイクもいつもと違うね。よく似合ってる」

彼はひとしきり私を褒めたあと、「いこう」と私の腰に腕を回した。

「待って。お金を払わなくちゃ」
「もう済んでるから気にしなくていい。これは、俺からのプレゼント」
「でも……」
「俺がしたくてしてることだから、結乃が気にすることはないよ」

店員のお辞儀に見送られて店を後にして、車に乗り込む。
私は運転席に座る彼の変化に気が付いた。

「陽介くんも着替えたの?そのスーツ初めて見たよ」

店に来る前は濃いグレーのスーツを着ていたのに、今は上品な色のミディアムブラウンだ。
会社で毎日顔を合わせているものの、このスーツを見たのは初めてだった。
容姿の良い彼はどんな服を着ても様になるけれど、このスーツは格別だった。
男性の色気を纏う彼を直視できない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたはカエルの御曹司様

さくらぎしょう
恋愛
大手商社に勤める三十路手前の綾子は、思い描いた人生を歩むべく努力を惜しまず、一流企業に就職して充実した人生を送っていた。三十歳目前にハイスペックの広報課エースを捕まえたが、実は女遊びの激しい男であることが発覚し、あえなく破局。そんな時に社長の息子がアメリカの大学院を修了して入社することになり、綾子が教育担当に選ばれた。噂で聞く限り、かなりのイケメンハイスぺ男性。元カレよりもいい男と結婚しようと意気込む綾子は、社長の息子に期待して待っていたが、現れたのはマッシュルーム頭のぽっちゃりした、ふてぶてしい男だった。  「あの……美人が苦手で。顔に出ちゃってたらすいません」  「まずその口の利き方と、態度から教育しなおします」 ※R15。キスシーン有り〼苦手な方はご注意ください。他サイトでも投稿。 約6万6千字

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

空から落ちてきた皇帝を助けたら近衛騎士&偽装恋人に任命されました~元辺境伯令嬢の男装騎士ですが、女嫌いの獣人皇帝から無自覚に迫られ大変です~

甘酒
恋愛
元辺境伯令嬢のビリー・グレイはわけあって性別を偽り、双子の兄の「ウィリアム」として帝国騎士団に籍を置いている。 ある日、ビリーが城内を巡視していると、自国の獣人皇帝のアズールが空から落下してくるところに遭遇してしまう。 負傷しつつビリーが皇帝の命を救うと、その功績を見込まれ(?)、落下事件の調査と、女避けのために恋人の振りをすることを命じられる。 半ば押し切られる形でビリーが引き受けると、何故かアズールは突然キスをしてきて……!? 破天荒な俺様系?犬獣人皇帝×恋愛経験皆無のツンデレ?男装騎士の恋愛ファンタジー 執筆済みのため、完結まで毎日更新! ※なんちゃってファンタジーのため、地球由来の物が節操なく出てきます ※本作は「空から落ちてきた皇帝を助けたら、偽装恋人&近衛騎士に任命されました-風使いの男装騎士が女嫌いの獣人皇帝に溺愛されるまで-」を大幅に改稿したものです。

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

処理中です...