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第三章

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翌日の金曜日。

「今日は全員、定時で帰って下さい。楽しいクリスマスを」という陽介くんの指示を受け、全社員がキッチリ定時で仕事を切り上げた。
私は人目を気にしながら会社を出て、陽介くんの車まで全速力で移動する。
十二月ということもあり、陽は落ち、外は暗くなり始めている。
車の中にはすでに陽介くんがいた。私に気付くなり車を降りて、助手席の扉を開けてくれる。

「乗って」

キョロキョロと辺りを見渡してから車に乗り込む。
助手席のドアを閉めて運転席に座った陽介くんがくすっと笑った。

「どうした、変な動きして」
「他の社員さんに見つかったら大変だと思って」
「俺は見つかったっていいと思ってるよ。悪いことしてるわけじゃないんだし」

彼はサラっと言う。

「でもやっぱり……ね。あ、ドア開けくれてありがとう。だけど、自分で開けられるから大丈夫だよ?」
「いや、逆に仕事のときはいつも俺が結乃にやってもらってるでしょ。だから、プライベートでは俺にやらせてよ」

陽介くんは飄々とした表情で言ってのけ、ハンドルを握り車を走らせる。
街中がキラキラとしたクリスマスカラーのイルミネーションに彩られている。
歩道には手を繋いで幸せそうに歩くカップルの姿があった。

「今日はずっと一緒にいられるんだよね?」
「あっ、うん」
「よかった」

数日前、クリスマスを一緒に過ごそうと誘われた私は二つ返事で返した。
翌日が土曜でお互いが休日なこともあり泊まる用意もしてきて事前に伝えられていた。

早瀬商事で働き始めてからは、仕事を覚えることに必死な私を気遣ってか陽介くんが会おうと誘ってくることはなかった。本当は仕事ではなくプライベートで会いたかったものの、ぐっと堪えた。
彼の秘書として働き始めてから、副社長の彼の大変さを改めて思い知らされた。

とにかく業務量が多く、目の回るような忙しさなのだ。
それでいて、彼は疲れを見せることは一切なくストイックに仕事に打ち込む。
私が会いたいと望めば、彼はいくらでも時間を作ってくれることだろう。
だからこそ、ワガママは言えなかった。彼の負担や迷惑になるようなことは、極力したくない。

車は大通りに面した高級ブティックの駐車場に止まった。

「ここは?」
「一緒に過ごす初めてのクリスマスだから、特別な日にしたくて。とりあえず、入ろう」

彼に連れられて店に足を踏み入れる。
煌びやかな店内はラグジュアリー感が漂い、磨き上げられた床は総大理石張りだった。

「早瀬様、お待ちしておりました」

まるでモデルのようにスタイルの良いスタイリッシュな女性店員が私たちの元へ歩み寄る。
どうやら彼はこのお店のお得意様らしい。こんなお店に入ったことのない私は、堂々とした佇まいの彼の後ろで借りてきた猫のように大人しくしていることしかできない。

「このあとディナーへ行く予定だから、彼女に一式プレゼントしたい」
「承知いたしました」

あらかじめ知っていたのか、店員は一切動じず笑顔を見せる。

「ちょっと所用があって少し出るから。どれでも好きな物を選んで」
「へっ?」

喉の奥からおかしな声が漏れた。

「陽介くん?ま、待って!」
「じゃあ、あとで」

穏やかに微笑んで店を出て行く陽介くん。私は店の奥へ案内され、VIP専用と思しき部屋に通された。
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