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第三章

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クリスマスを明日に控え、街はどこを見渡しても赤、白、緑の三色で覆われる。
街行く人たちもどこか浮足立った雰囲気だ。
その日のお昼休み。
「秋月さんも一緒に食堂行く?」と秘書課のメンバーに声を掛けられ、お弁当を持ってきたからとやんわりお断りする。
秘書課の大半はお財布を片手に立ち上がり同じビル内にある社員食堂へ向かった。

聞いた話によると一昨年、社員からの要望を受けた陽介くんが今までの社員食堂を一新させたらしい。
大人数が入れるようにフロア内を改築し、さらに社員の健康を考えて栄養バランスを重視したメニューを増やした。さらに低価格な日替わりメニューも充実し、社員食堂を利用する社員が増えたのだという。

秘書課へ異動してきたばかりの頃は、今日のように誘われて何度か社食へ足を運んだ。
けれど、急な用件などの大事な電話がかかってくることもあると知ってからは、自席で食事をとるようにした。
もちろん、休憩時間中にかかってきた際の電話番は日替わりで常駐しているし、私がいなくても何ら問題はない。
ただ、私は異動してきたばかりの下っ端だ。
いざという時に何かのお手伝いができるように準備しておく必要がある。

「いただきます」

私は自席でお弁当の包みを広げ、静かに手を合わせて食べ始める。
本来ならば私のデスクはここにはない。
副社長の執務室のすぐ脇にある専用の秘書室が与えられているからだ。
けれど、右も左も分からない私が秘書室にこもっても仕事が捗るはずがない。
それを慮って陽介くんが秘書課の中に私の席を用意してくれたのだ。

「わっ、秋月さんのお弁当美味しそう~!若いのに自炊してて偉いわぁ」

向かいの席でコンビニのおにぎりを頬張る関さんが声を上げた。
四十代前半で三人の子供がいる。
陽気な性格で面倒見も良いため、課内では肝っ玉母さんとしてみんなに慕われている。

「そんな!夕飯の残りを詰めただけの簡単な物ですから」

昨晩の夕飯のチンジャオロース。それと常備している煮卵。隙間に茹でたブロッコリーとプチトマトを入れただけのお手軽弁当だ。

「それすらできない私はこれよ~?」

おにぎりを食べ終えた関さんは、外包装を顔の前で振り、苦笑いを浮かべた。

「私は独身なので、時間にゆとりがあるだけですよ。その点、関さんはお子さんが三人もいますし。フルタイムで仕事して家に帰ったら家事と育児ですもん。頭が下がります」

二つ目のおにぎりを手に取りながら関さんが尋ねた。

「そういえば、秋月さんって結婚願望とかあるの?」
「私ですか……?」

ブロッコリーを咀嚼しながら考える。

「うーん、どうなんですかね。うちは両親が離婚していて……。あまり自分の結婚生活を想像することができなくて」
「そうなのね。でも、大丈夫よ。うちも両親が離婚してるんだけどさ、今の私すっごく幸せだから」

関さんはにっこり笑う。
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