上 下
40 / 92
第二章

12

しおりを挟む
秘書課で働く社員は全部で十五人。
陽介くんが副社長に就任してからは、人員の入れ替わりはほぼないらしい。
それも、陽介くんの人柄ゆえだろう。
彼は度々秘書課へ顔を出して訪問先でもらったお菓子をおすそ分けしてくれる。
もちろん、秘書課だけでなく各部門にも同等の差し入れをこまめに行っているらしい。秘書課は女性が多い。こういうきめ細やかな気遣いひとつでモチベーションも格段に上がる。彼は女心をよく分かっている。

朝の挨拶を済ませて、自席へ向かう。
秘書の仕事は多岐に渡る。
副社長である陽介くんが業務を円滑に進められるようにサポートするのはもちろん、社内外からの問い合わせや書類確認依頼なども数多くこなす必要がある。
各部署から持ち込まれる案件すべてに目を通し、精査して処理し、必要があれば書類にまとめて副社長へ報告する。
書類作業を終え、秘書課のホワイトボードに外出のマグネットを貼り席を立つ。
有名洋菓子店で手土産購入し、会社へとんぼ返りする。

ちょうど昼時を迎えたこともあり、お財布を持ったOLたちとすれ違った。
ぐるるっと鳴るお腹を押さえて早足で歩く。
会社の入り口付近には、灰色の派手なファーコートにレオパード柄のミニスカートを履いた派手な女性が立っていた。
女性の横を通り過ぎようとしたとき、「ねぇ」と声を掛けられて立ち止まる。

「あなた、この会社の人?」
「はい」

女性は私の格好を上から下まで舐めるように見つめた。

「スーツ……ってことは、秘書課の人?」

早瀬商事では数年前から年間を通して各社員の判断で服装を自由に選べる制度を導入している。
硬直的な考えを改めて仕事を効率化する狙いだ。けれど、秘書課だけは話が別だ。顧客を接待することも多々あり、急な来客にも対応できるようにスーツの着用が基本だ。
例にもれず私も紺色のスーツを着用している。

「――茜ちゃん!」

すると、会社からスーツ姿の男性が飛び出してきた。
その男性は早瀬商事の専務で社長の弟にあたる人物だった。
会社では何度か見かけたことはあるものの、直接的に関わったことは一度もない。

「も~、おじさまってば遅いわ!あたしを待たせるなんてどういうつもり!?それで、陽介さんは?」

私は弾かれたように女性を見つめた。

「すまない。誘ったんだが、どうしても外せない用事があってこられないらしい」
「え~、今日も?どうしてそんなに忙しいのよ!」

女性は不満を口にして不機嫌さを一切隠さず、腕を組んで唇を尖らせる。
小さく頭を下げて去ろうとした瞬間、「待ってくれ」と専務に呼び止められた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

絶倫彼は私を離さない~あぁ、私は貴方の虜で快楽に堕ちる~

一ノ瀬 彩音
恋愛
私の彼氏は絶倫で、毎日愛されていく私は、すっかり彼の虜になってしまうのですが そんな彼が大好きなのです。 今日も可愛がられている私は、意地悪な彼氏に愛され続けていき、 次第に染め上げられてしまうのですが……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫

Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。 生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。 行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。 そしてそんな妻を愛してやまない夫。 束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。 自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。 時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。 そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。 ୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧ ※現代もの ※R18内容濃いめ(作者調べ) ※ガッツリ行為エピソード多め ※上記が苦手な方はご遠慮ください 完結まで執筆済み

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...