ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました

第二章

５

あんなに騒がしかったフロアが一瞬で静まり返った。
体のラインに沿った仕立ての良いネイビーのスーツをびしっと着こなした男性がコツコツと一定のリズムを刻み歩み寄ってくる。

「紹介するよ。先程話した、早瀬商事の副社長だ」

社長の言葉に女性たちが色めき立つ。それでも彼は表情一つ変えない。

「初めまして。早瀬商事の早瀬陽介と申します。突然のことで驚かれたかと思います」

場慣れしているのか彼の所作は落ち着いている。
彼は買収に当たっての経緯を丁寧に説明しながら、目の前の人々に視線を走らせる。
私は食い入るように彼を見つめた。
彼の視線がフロアの中央にいた私を捕らえた。
けれど、私など知りもしないと言うようにすぐに目を反らす。
彼はそのまま一切動じることなく言葉を続けた。

「北本社長にはこのまま続投していただきます。あくまで早瀬の傘下に入るだけですので、雇用条件等も変わりませんのでご安心を」

陽介くんの言葉で念を押されたことで、その場にいる全員が安堵し、楽観ムードが漂う。

「ですが」

おだやかな口調は変わらないものの、陽介くんの言葉には強さがあった。
ピリッと場の空気が張り詰める。

「早瀬の傘下に入った以上、コンプライアンスは遵守して頂きます。買収前に内密に複数の社員と個別に面談を行った結果、社内でパワハラと思われる事案が確認できました。私はこの問題を見過ごすつもりはありません。もしも当事者を見つけたら厳正に処分しますのであしからず」

彼の言葉にフロアは騒然となる。陽介くんの視線の先には、なぜか轟部長がいた。
自身に向けられた言葉だと敏感に察しとったのか、轟部長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

彼が出て行ったのを足掛かりに、他の部署の社員もぞろぞろとフロアから出て行く。それぞれ様々な思いを抱えながらも、各々の業務に取り掛かる。
私も席に座り、パソコンを起動させる。すると、予想通り轟部長がやってきた。

「秋月、ちょっとついてこい」
「……はい」

私は立ち上がり轟部長の背中を追いかけた。