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第二章
2
しおりを挟む週明けの月曜日。
出勤後に待ち受けていたのは予想通り、轟部長からのパワハラだった。
轟部長はフロアの外にある流し台だけしかない狭い給湯室に私を呼び出した。
さすがの轟部長でも、フロアで話すのは憚られたようだ。
百七十五センチほどの身長だが、恰幅が良いため威圧感がある。
胸の前で腕を組み眉間に深い皺を寄せた轟部長は、私を見下ろして右の口の端をくいっと持ち上げた。
「秋月、上司からの電話を無視するとは、お前はずいぶん偉くなったようだなぁ?」
高圧的な物言いだった。
週明けに呼び出される覚悟はできていたものの、手が震えて喉の奥がカラカラに干上がる。
「……申し訳ありません。業務の話でしたら、今伺います」
すぐに謝罪して、目を合わせず淡々とした口調で答える。
今までだったら謝罪を繰り返すことしかできなかったけれど、陽介くんが部長の行為をコンプライアンス違反だとばっさり切り捨ててくれたおかげで少しだけ勇気がでた。
「あ?今話すかどうか決めんのは、俺だ!お前じゃない!」
けれど、私の言い方が癪に障ったのか部長は激高した。
口汚い言葉で私を罵り、ネチネチと嫌味を繰り返す。
月曜日の朝は特に忙しい。週末に海外から届いたメールの返信や納期スケジュール調整などやらなければならないことがたくさんある。
どんな仕事であれ、お給料を頂く以上会社に少しでも貢献したい。
なかなか就職が決まらなかった中、唯一私を受け入れてくれたこの北本貿易に恩返しがしたい。
その強い思いで今まで頑張ってきた。
「俺だって言いたくて言ってるんじゃないんだぞ?お前があまりにも無能だから言わざるを得ないんだぞ!」
我慢強い方であると自負しているものの、日を追うごとに酷くなる轟部長のパワハラ。
この地獄のような時間はいつまで続くんだろうか。
昔、父からモラハラを受けていた私は自然と意識を遠くへ飛ばす術を覚えた。
そうすることで心を守っていたのだと気付いたのは、大人になってからだ。
父から解放されたのに、今度は轟部長からターゲットにされてしまっている。
轟部長は、いくら貶しても私が言い返さないことを知っている。
だから、こんなにも酷い扱いができるんだろう。
軽んじられているのが許せないならば、抵抗すればいい。
そう頭の中では分かっている。
けれど、反撃に失敗すればさらに酷い状況になる。
父に言い返した時、火に油を注いでしまった辛い記憶が蘇る。
自分が悪くなくても謝れば、その場は収まった。私が我慢すればすべてがうまくいく。
だから、私は……――。
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