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第一章
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しおりを挟む「今夜は帰したくない」
熱のこもった瞳で私を見つめながら、彼は頬に手を当ててそっと親指で撫でつけた。
彼の指先は冷え切っていた。私に上着を貸したせいだろう。
「私も……まだ陽介くんと一緒にいたい……」
照れながら本心を伝えると、陽介くんの喉仏が上下した。
酔いはとっくにさめていた。それでも、私は彼を求めた。
大胆な発言をしてしまったと顔が熱くなる。
恋愛経験がなくたって、私は大人だ。
彼の言葉が意味することぐらい理解している。
それでも、十年越しの想いが叶った無上の喜びに高揚し、とても冷静ではいられなかった。
彼はそのまま私の手を引き、車の方へ歩き出した。
車に戻るなり、彼はどこかへ電話をかけた。
今から向かうと告げて車を走らせる。
向かった先は、雑誌にも掲載されている超高級ホテルだった。
その最上階にあるスイートルーム。百平方メートルはある広々とした室内からは、都心の大パノラマが一望できる。
ラグジュアリー感溢れる寝室に足を踏み入れるなり、彼は待ちきれないとばかりに早急に私を抱き寄せた。
唇がわずかに触れ合うキスを繰り返しながら、雪崩れ込むようにベッドに押し倒される。
ベッドの上で膝立ちになりながらネクタイを緩める彼を見上げ、不安が込み上げる。
彼と一線を越えるのが怖いのではない。
私には経験がない。彼に求められてうまく応じられるのかが心配だった。
「どうした?」
彼はそれを察しとったように、私の髪を優しく撫でつける。
「あのね、私……経験がないの。だから、陽介くんに迷惑をかけちゃうかも……」
すると、彼はほんの少しだけ驚いたように目を丸くした後、やわらかく微笑んだ。
「迷惑なわけないだろ。逆に嬉しいから」
「でも……」
「大丈夫。全部俺に任せて」
私を安心させるためか彼は私のおでこにチュッと音を立ててキスを落とした。
彼の言葉には不思議な力がある。
あんなにも強張っていた身体から力が抜けていく。
彼は高価そうな腕時計を外してキングサイズのベッド横に備え付けられた寝台に置き、部屋の電気を消した。
月明かりが私たちを優しく照らす。
「好きだよ、結乃」
初めて名前を呼ばれた瞬間、喜びに胸が打ち震えた。
彼の特別になれたのだと改めて実感する。
彼はベッドに放り出されていた私の右手に自分の左手の指を絡ませて、ギュッと優しく握った。
視線が熱く絡み合う。
それを合図に彼は私にキスを落とした。
触れるだけの軽いキスの後、唇を味わうように優しく食まれる。
「んっ……」
息継ぎの合間にわずかに開けた唇の隙間から、彼の舌が素早く入り込んでくる。
味わうように舌を吸われて舐め転がされる。
脳が痺れてくるような官能的なキスに身体の芯が震えてつい甘えた声を漏らしそうになる。
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