16 / 92
第一章
15
しおりを挟む「冗談なんかじゃない。ただあの後、母親が再婚して名前が変わって……。言うタイミングを逃したまま卒業して離れ離れになった。あの時の俺は自分のことに必死で、秋月を幸せにする自信がなかった」
確かにあの合宿の後、彼は早瀬姓に変わった。
私には分からない苦労や重圧を背負ったに違いない。
時々切なげに笑うようになったのはあの頃からだ。
真剣な表情で彼は続ける。
「今日のクラス会だって行くつもりはなかった。いつも秋月が参加してないって知ってたから。でも、来てるって連絡が入っていてもたってもいられず仕事を切り上げて店に行った」
「陽介くん……」
「一分でも一秒でも早く会いたくて駐車場から店まで全力疾走するなんて、馬鹿だよな。今日十年ぶりに秋月と会って、やっぱり俺は今も秋月が好きなんだって実感した」
信じられない。彼が私を好きだなんて。
海風にのって彼の方からふわりと甘いムスクの香りがする。私の胸は痛いぐらいに高鳴った。
「一緒にいる間、遠回しにアプローチしたけど全然気付いてくれないから、曖昧な言い方するのはもうやめる。酒飲まなかったのは、秋月のことを車で送る名目でふたりっきりになりたかったからだし、他の女子と連絡先交換とツーショット写真を撮るのを拒んだのも秋月に変に誤解されたくなかったから」
彼の言葉に胸が浮き立つ。
「秋月は俺を優しいって言うけど、そうでもないよ。俺が秋月に優しくするのは特別な感情があるから。秋月が好きだからだ」
私を見つめる彼の澄んだ瞳に心が大きく揺れる。
「突然こんなこと言って驚かせてごめん。でも、秋月を前にしたら気持ちを抑えられなかった」
射貫くように強い眼差しに感情が込み上げる。
「秋月の気持ちを教えて欲しい」
「私……」
言葉を紡ぐ私に陽介くんが熱のこもった視線を向ける。
自分の気持ちを口にするのは勇気がいる。
それでも彼は本音を曝け出してくれた。
それなのに、自分だけ胸の内を明かさないのは不公平だ。
ぐっと拳を握りしめて彼を真っすぐ見つめる。十年越しの想いを伝えるには、今しかない。
33
お気に入りに追加
299
あなたにおすすめの小説
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
空から落ちてきた皇帝を助けたら近衛騎士&偽装恋人に任命されました~元辺境伯令嬢の男装騎士ですが、女嫌いの獣人皇帝から無自覚に迫られ大変です~
甘酒
恋愛
元辺境伯令嬢のビリー・グレイはわけあって性別を偽り、双子の兄の「ウィリアム」として帝国騎士団に籍を置いている。
ある日、ビリーが城内を巡視していると、自国の獣人皇帝のアズールが空から落下してくるところに遭遇してしまう。
負傷しつつビリーが皇帝の命を救うと、その功績を見込まれ(?)、落下事件の調査と、女避けのために恋人の振りをすることを命じられる。
半ば押し切られる形でビリーが引き受けると、何故かアズールは突然キスをしてきて……!?
破天荒な俺様系?犬獣人皇帝×恋愛経験皆無のツンデレ?男装騎士の恋愛ファンタジー
執筆済みのため、完結まで毎日更新!
※なんちゃってファンタジーのため、地球由来の物が節操なく出てきます
※本作は「空から落ちてきた皇帝を助けたら、偽装恋人&近衛騎士に任命されました-風使いの男装騎士が女嫌いの獣人皇帝に溺愛されるまで-」を大幅に改稿したものです。
おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。
ちょっと、聞いてないんですけど。
※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。
※不定期更新
※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる