【完結】ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました

第一章

１４

「ご、ごめんね。仕事の電話だと思う。あとで折り返せば大丈夫だから」

電話が切れた。
そのタイミングでスマホの電源をオフにしてバッグの奥底に押し込む。

「見るつもりはなかったけど、画面見えた。部長クラスが休日のこんな時間に女性社員に仕事の電話をかけてくるのは普通じゃない」
「でも、私のせいだから……」

こうなってしまったのは轟部長に好意を寄せられているのに気付いていながら、上手く立ち回れなかった自分のせい。

「さっきの電話も同じ人？」
「……うん」

彼に嘘を吐くのは憚られて、素直に頷く。

「詳しいことは分からないけど、それは、間違いなくコンプライアンス違反だ。会社として徹底しないといけない」

彼の表情がみるみるうちに険しくなる。まるで自分事のように憤る。

「秋月のせいじゃないから、自分を責めなくていいよ」

彼の言葉が優しく胸に染み込む。
いつだって私の気持ちを汲み取り、欲しい言葉をくれる。
もちろんそれは私にだけではない。淡い期待を抱きそうになる自分を、必死に戒める。

「私、陽介くんに助けてもらってばっかりだね。覚えてる？高三の合宿の日のこと」
「ああ、覚えてる」

私は夜景を遠目に見つめた。
あの日、私はマネージャーとしてサッカー部の県外合宿に同行した。
奈々はどうしても外せない用があり、初めて一人で参加することになった。
普段よりも仕事量も多く、慣れないこともあり焦ってミスを連発。
部員のみんなは優しくフォローしてくれたものの、自分の不甲斐なさに落ち込んでいた。

その日の夜、陽介くんは「ちょっとでない？」と私を海に誘った。
砂浜に二人で腰かける。寄せては返す穏やかな波の音に心が落ち着いていく。
しばらくすると、「あのさ」と彼が口を開いた。
でも結局「ごめん、何でもない」と口をつぐんだ。
言葉はいらなかった。ただ隣にいてくれるだけで、私は彼の優しさに励まされ、癒された。

「あのとき、ミス連発の私を励ますために海に誘ってくれたんだよね？」

当時を思い出し、何気なく尋ねる。

「違うって言ったらどうする？」
「え？」
「あの日、秋月に告白するために海に誘ったけど、落ち込んでる秋月を見て弱ってるところに付け込むみたいでやめたって言ったら？」
「まさか。陽介くんってばそんな冗談言って」

湧きあがる期待を必死になって諫める。