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第一章
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しおりを挟む「じゃあ、俺と一緒にいるときだけでも、気を使わなくていい練習してみれば」
「うーん……、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、なかなか難しいかな」
本人を前にしているから言えないけど、相手が初恋相手の陽介くんだからなおさら難しいのだ。
「なら、秋月が気を使えないぐらい、俺が目いっぱい甘やかせばいいんだね」
自分に言い聞かせてるみたいな声色だった。
彼がどんな顔をしているか、見ることはできなかった。
ただドキドキとうるさく鳴る心臓の音が、一刻も早く収まることを祈ることしかできない。
互いの間に沈黙が訪れた。
けれど、居心地は悪くない。
車がトンネルに入り、車内がオレンジ色のライトに照らされる。
高速道路を走る車の音が心地よく鼓膜を震わせた。
四十分ほど車を走らせ、目的の場所に到着した。やってきたのは国内最大級の客船ターミナルだった。
屋上デッキからは三百六十度のパノラマの夜景を一望できる。
「すごい……!綺麗……!」
眼前に広がる煌びやかな夜景に思わず感嘆の声を漏らす。
土曜日の夜ということもあり、広々としたウッドデッキのあちこちにカップルや家族連れの姿がみられた。
しばらくうっとりと夜景を眺めたあと、記念に夜景を写真におさめる。ふいに冷たい海風が吹き、思わずぶるっと身体を震わせる。
彼は何も言わずにスーツの上着を脱ぎ、私の肩にかけてくれた。
スーツにはまだ彼の体温が残っている。
まるで彼に後ろから抱きしめられているような錯覚を起こしそうになる。
「陽介くん、私なら平気だよ」
「だめ、風邪ひいたら困るから」
「でも、私に貸したら陽介くんが風邪ひいちゃう」
「秋月も知っての通り、体は強い方だから。それより、一緒に写真撮ろう」
彼はスマホを取り出して片手で器用にカメラを起動させる。
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