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第一章
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しおりを挟む「すみません……」
出入りの邪魔にならないように体をずらす。
「大丈夫か?」
出てきたのは陽介くんだった。その手には私のベージュのカーディガンが握られている。
「どうして……?」
目が合った瞬間、ポロリと涙が零れた。
私は手の甲で慌てて涙を拭う。
弱みを見せたくなかったわけではなく、陽介くんを困らせてしまうのが嫌だった。
「店の中探したけどいないから、外かと思って」
陽介くんは私の背中にふわりとカーディガンをかけてくれた。
昔から私はいつもこうやって彼に助けてもらっている。
私が望んでいること、してもらいたいことを、彼は不思議と叶えてくれるのだ。
「カーディガンありがとう。私なら大丈夫だから。寒いし中戻ろう?」
彼に心配をかけないように微笑んで一歩踏み出すなり、手首を掴まれた。
彼の手のひらは想像以上に大きくて温かい。
手のひらの熱が私にまで伝わり、身体を熱くさせる。
「全然大丈夫そうに見えないんだけど」
顔を覗き込まれてつい目を反らす。
「本当に大丈夫だよ」
「秋月がそう言っても、俺が大丈夫じゃないから」
あの頃と同じ口調の彼の言葉が胸に優しく染み渡り、甘酸っぱい感情が込み上げる。
彼はそっと私の目尻の涙を指で拭った。
労うような眼差しが向けられる。私を心から心配してくれているのが伝わってくる。
「二人で抜けよ。すぐ戻るからここで待ってて」
「でも……」
「勝手でごめん。だけど、秋月のそんな顔、俺以外の男に見せたくないんだ」
彼はそう言い残して店に戻っていった。
ほどなくして店から出てきた彼の手には、私のバッグが握られていた。
会費もまだ払っていないと慌てる私に「秋月の分も払ってあるから安心して」と彼は何食わぬ顔で言ってのけた。
バッグからお財布を取り出し何度も支払うと言っても、彼は受け取らないいの一点張り。
私はお礼を言って、渋々お財布を引っ込めるしかなかった。
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