【完結】ハイスぺ副社長になった初恋相手と再会したら、一途な愛を心と身体に刻み込まれました

中山紡希

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第一章

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彼が隣にいると思うだけでなんだか落ち着かない。
意味もなく食べ終えた食器を隅に寄せたり、テーブル周りの紙ごみを一か所にまとめたりしてしまう。
それでも手持ち無沙汰になってしまった私は、グラスに半分残ったレモンサワーを一気に飲み干した。
付き合い以外ではあまり飲まないし、お酒に弱い。途端、胃の奥がカッと熱くなる。
すると、隣からくすっという笑い声がした。

「変わってなくて安心した」
「え?」
「いや、なんでもない。秋月が酒飲んでるのってなんか不思議」
「そうかな?私もう二十八だよ」
「確かに十年ぶりだもんな。元気してた?」
「うん。あ、気付かなくてごめんね」

私はそっと陽介くんにメニュー表を差し出した。

「ありがと」
「なに飲む?言ってくれれば私頼むよ」
「いいよ、気使わなくて。自分で頼む」

陽介くんは店員さんを呼び丁寧な口調でノンアルコールビールと私がお願いしたカルピスサワ―を注文した。

「陽介くんはお酒飲まないの?」
「いつもは呑むけど、今日はやめとく」
「そっか」

きっとこの後に予定があるんだろう。
あまり詮索しないほうがいいと考え、言葉を切る。
運ばれてきたノンアルビールとカルピスサワーで乾杯する。
カチンッとグラスの触れ合う心地の良い音。私たちは十年ぶりの再会を祝った。

「今、仕事は?」
「うん。小さな貿易会社で働いてるよ」
「へぇ。なんていう会社?」
「北本貿易っていうんだけど、知らないよね?」
「え、北本?知ってる、北本社長とは懇意にしているから」
「そうなの?」

まさか北本社長まで知っているなんて。さすが早瀬商事の御曹司なだけあって顔が広い。
私たちは互いの近況を報告し合った。

「貿易事務じゃ英語が必須だな。でも秋月って、高校の時から英語得意じゃなかった?」
「得意ってほどでもないんだけど、好きだったよ」
「だよな」

遠い昔のことを覚えてくれているなんて。
陽介くんとの会話は楽しくて、ついついお酒が進む。それに従って、妙な高揚感が沸き上がる。

「陽介くんは今、副社長なんだね。すごいなぁ」

彼から受け取った名刺をまじまじと眺める。
明らかに上質な紙の名刺には【早瀬商事 副社長 早瀬陽介】と記されている。

「すごくなんてないよ。さっきみたいに御曹司だってはやしたてられるけど、社長と血の繋がりはないし。一部の人は、副社長になった今も俺を早瀬の人間だと認めてくれてないから」

どうやら先程の会話は聞かれていたようだ。
フッと笑うその横顔に影が落ちた。
前にもこういうことがあった。陽介くんが早瀬の姓になって校内が騒ぎになったときにも、今みたいに切ない気持ちを押し殺したみたいな顔で笑ってた。

「そ、そんなことないよ!」

たまらず声を上げる。陽介くんは少し驚いたように目を丸くした。

「副社長になれたのは、陽介くんの努力の結果だよ。高校時代もレギュラーなのに人一倍サッカーの練習もしてたし、引退後は受験勉強頑張ってたよね?私、すごく尊敬してたの」

思っていることをまくしたてる様に一気に放つ。

「さっきも庇ってくれてたよな。ありがと」
「ううん、お礼を言いたいのは私のほう。高校時代もたくさん助けてくれたよね。ありがとう」
「いや、それ逆。俺が秋月に助けてもらってたんだよ」

酔いが回り始めた。こんな風に気持ち良く酔うのは、ずいぶん久しぶりだ。

「ねえねえ、陽介くん」

すると、奥の席の女子二人がやってきて、陽介くんに声を掛けた。

「久しぶりだし、色々しゃべろうよ!あたしたちのテーブル来てくれない?」

高校時代よりさらにあか抜けて可愛くなった二人。
バッチリメイクに艶やかな髪の毛を緩く巻いた港区女子風の出で立ちだ。

「俺、ここにいたいんだ」
「なんでぇ?ちょっとでいいから来てよぉ」

腰を落として陽介くんの腕を掴み、グイグイ引っ張る。
その左手にはスマホが握られている。

「来てくれないなら連絡先だけ教えてよ」
「ごめん、離して。それから、連絡先交換とか写真撮ったりもできないから」
「え~、ちょっとぐらいいいじゃん~!」
「ツーショット写真とか出回って誤解されたら色々困るから」

早瀬商事の副社長ともなると、女性スキャンダルにも敏感になるのかもしれない。
自分とは違う世界線で生きている彼を少しだけ遠く感じてしまう。

「えー」

口調は穏やかながら有無を言わさぬ強さがあった。そんな陽介くんに女子二人組は唇を尖らせる。
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