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第一章

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買い物を終え、奈々おすすめのおしゃれなカフェに移動する。
店のシンボルツリーらしいクスノキの周りに配置されたテラス席に案内される。
開放的でゆったりとした空間は何時間でもいられそうなほど居心地がいい。
しばらくすると、注文したランチプレートが運ばれてきた。
プレートに乗ったサラダとポテト。それに、厚切りのベーコンやトマトがふんだんに挟まったアメリカンクラブハウスサンド。
一口頬張ると、口の中いっぱいに広がる旨味に自然と笑みが漏れた。

「美味しい!」

味を楽しむように噛みしめながら食べる。たまに食べるジャンクフードの味わいは至福だ。

「でしょ!ここ、こないだ初めて知って結乃が喜びそうだなって思ってたの」

奈々は得意げに鼻を鳴らす。食事に舌鼓を打ち、デザートのアイスを食べ終わったとき、奈々が申し訳なそうな表情を浮かべた。

「あ、そうそう。実は、言い忘れてたことがあって」
「うん。なに?」
「実は、陽介くんなんだけど、今日はやっぱり来られないみたい。結乃のこと誘っておいてごめんね」

私は微笑んで首を振る。

「いいの、気にしないで。陽介くん、忙しいと思うし」
「うん。今や、あの早瀬商事の御曹司だからねぇ」

奈々は遠い目で言う。
早瀬陽介の旧姓は佐原だ。
高三で母親が早瀬商事の社長と結婚して、陽介くんは早瀬陽介となった。
早瀬商事は日本中の誰もが知る大企業。当時、陽介くんは周りの友達から御曹司になったともてはやされていた。
その度に、複雑そうな顔をして笑っていたのを今も覚えている。
元々地元の国立大を目指していた陽介くんの進路は都内にある名門私立大学にかわった。
高校卒業後は、第一希望の大学へ進学して経営学を学び、継父が社長を務める早瀬商事に入職したと後に奈々から聞いた。

「結乃って卒業してから陽介くんと連絡取り合ってないの?」
「うん。私と陽介くんは、サッカー部員とマネージャーっていうだけだもん。奈々が思ってるようなことはないよ」

高校卒業後、私は地方の国立大へ進み、彼との接点はなくなった。
結局、彼への初恋は実らぬまま二十八歳を迎えてしまった。
陽介くんは今まで出会ったどの男性よりもとびっきり魅力的だった。
初恋相手を超える人にはいまだに出会えず、彼氏の一人もいないなんて由々しき問題だ。

私の心の中にはいまだに陽介くんがいる。
早く忘れて前を向かないといけないと頭では分かっていても、心が言うことを聞いてくれない。
この先、心惹かれる男性と出会えることはあるんだろうか。
けれど、出会いがないことを嘆くことなどおこがましい。
自分から積極的に動かなければ、チャンスが舞い込んでくることもないのだ。

「……よしっ!今日は気合入れていこう!十年ぶりの再会で、新たな恋が始まるかもしれないしね!」
「うん、そうだね」
「あっ、今言っとく。今日のクラス会で誰かといい感じになったら、あたしのことは気にしないで二人で消えなさいね」
「え?」
「チャンスはものにしなくちゃ!独身同士ならワンナイトラブもありよっ!」

まだ一滴もアルコールを摂取していないのにも関わらずテンションのおかしな奈々に苦笑いを浮かべる。

「もしもそんなことになったら、そうさせてもらうね」

私に限ってそんなことは起こらない。この時の私はそう自負していた。
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