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第七章 忍び寄る影
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しおりを挟む「……き。実咲」
名前を呼ばれて目を開けと、私は見覚えのない場所にいた。
白い天井にはポツポツと丸い穴が開き、かすかに消毒液の匂いもする。
「意識が戻ってよかった……」
視線の先には安堵した表情を浮かべる智哉さんがいた。
「智哉さん……?ここは……?」
「病院。こめかみの辺りから結構出血してたけど、縫う必要もないらしい。一応検査したけど、脳にも他の場所には異常ないって」
「ああ……そうだ。私、俊介に……っ……」
全てを思い出して慌てて体を起こそうとすると、ズキッと傷口が痛んだ。
「まだ起きないほうがいい」
「あの、彼は……?」
恐る恐る尋ねると、智哉さんは躊躇いながらも話してくれた。
「警察署。でも、彼がそこにいるのは、今回の実咲の件だけじゃないんだ」
「え……?それ、どういうことですか?」
「上島俊介は、既婚者で社内でW不倫をしていたらしい。それを相手の旦那に知られて慰謝料を請求されていたんだ。それだけじゃなく、その金を工面するために会社の金を横領していた」
「なっ……」
言葉を失う。
「自分の妻と子供にも愛想つかされて逃げられて、精神的に追い詰められておかしくなっていたんだろうな。それで、再会した実咲に執着し始めたんだろう。でも、実咲は拒んだ。それが分かると、金を要求し始めた」
「どうしてそれを……?」
「実咲の様子が明らかにおかしかったから、探偵事務所に勤めてる幸子に頼んで探りをいれてもらった。昨日も、実咲のアパートに張り込んでる幸子から元カレが家に来たって連絡を受けて急いで向かったんだ。でも、少し遅かった……」
「幸子ちゃん……探偵さんだったんだ……」
「あれ、言ってなかった?」
シレっと答える智哉さん。
「聞いてませんよ!」
私が唇を尖らせると、智哉さんはそっと私の髪を撫でた。
「怖い思いをさせてごめん。もう二度と、こんな思いはさせないから」
申し訳なさそうな表情を浮かべる智哉さん。
「違います。私がいけないんです……。俊介に脅されて……それをどうしても智哉さんに言えなくて……」
「あの男に、なんて言って脅されてたの?」
心配そうな智哉さんに私はすべてを打ち明けた。
「……あの野郎、絶対に許せない。おそらくでまかせだろうが、知り合いの優秀な弁護士に対処法を聞いておくよ」
「ありがとうございます」
ホッとして目頭がじんわりと熱くなった。ポロリと涙が零れて、耳のほうに流れる。
それを指で拭う智哉さんは、私を温かい眼差しで見つめる。
あれは夢だったんだろうか……。
その優しい眼差しを私はついに思い出した。はるか昔、確かに私と智哉さんは出会っていたのだ。
「……アキトさん」
名前を呼ぶと、智哉さんが驚きに目を見開いて、唇を震わせた。
「今、なんて?」
「私も前世の記憶が蘇ったんです。アキトさんと過ごした日々のことも……全部」
「実咲……」
私だけでなく、今度は智哉さんまで涙を零す。ボロボロと泣く智哉さんにそっと手を伸ばす。
その手を智哉さんはぎゅっと両手で握りしめると、「昔も今も、俺は君が好きだ」と声を震わせる。
「私も、あなたが好きです」
互いの記憶を取り戻し、100年以上の月日を経てようやく私たちの想いは重なり合った。
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