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第七章 忍び寄る影
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しおりを挟むコンペから一週間が経った今日。
結果のでる時間になりチーム全員が営業部のフロアの一角に集まり、今か今かとJJTからの電話連絡を待った。
「どうせ通らないって。期待するだけ無駄だぞ~」
コーヒー片手に部長が嫌味を言いながら通り過ぎていく。
全員朝からそわそわと落ち着かなかった。手ごたえはあったし、全員の力はすべて出し切った。
例え結果がどうであれ、この努力は絶対に無駄にはならないし後悔はない。
そのとき、電話が鳴った。
一度息を吐くと、智哉さんは受話器を取り耳に当てる。
その場にいる全員が固唾を飲んで見守った。
「ええ、分かりました。はい。失礼いたします」
顔色一つ変えず淡々と言葉を交わした後、智哉さんは受話器を置いた。
「どうでしたか?」
私が尋ねると、智哉さんは一度大きく息を吐きだした後、眩いほどの笑みを浮かべた。
「やりました。うちの勝ちです」
「本当ですか!?やった!!」
その言葉に、私たち全員は飛び上がり喜んだ。
斎藤さんと黒川さんはハイタッチして抱き合い、冬野くんはその場で小さくガッツポーズをした。
「よかった……。本当によかった……」
これ以上ないというほどの喜びに目頭に涙が浮かぶ。
今回の案件は、このチーム全員でもぎ取った勝利だ。
誰か一人でも欠けていればきっと成功しなかった。
「ちょっ、白鳥さんが泣いてる!!」
黒川さんの言葉に全員の意識がこちらに向けられる。
「な、泣いてないわ」
言いながらボロボロと零れ落ちる涙を必死に拭う私にみんなが目を見合わせて笑う。
「お疲れ様です。チームリーダー!」
黒川さんと斎藤さんが私の背中を優しく摩ってくれる。今までだったら、私がする側だったのに。
でも、こういうのも悪くない。
ティッシュで音を立てて鼻をかむと、私は真っ赤な目をみんなに向けた。
「この結果は、伍代さんをはじめ、みんなの協力のおかげです。最初は正直、このチームじゃ絶対に無理だろうって思ってたけど……諦めなくてよかったです。みんなお疲れさまでした」
私の言葉にみんな目に薄っすらと涙を浮かべる。
大変だった分、喜びは倍になった。今までずっと個人として仕事をすることが多かった。
誰かに協力してもらってチームとして仕事をする大切さを、智哉さんに教えてもらった気がする。
「ということですので、皆さんこれからも引き続きよろしくお願いします」
智哉さんはそう言うと、爽やかな笑顔で「部長!」と声を上げた。
突然呼ばれた部長は、ビクッと肩を震わせる。
「先程、どうせ通らないとおっしゃっていましたが、どうやら先見の明がないようですね」
「なっ……」
部内全員が智哉さんと部長のやり取りを見つめる。
すると、彼はツカツカと部長のデスクへ歩み寄った。
「あなたは営業部の部長だ。それなのに、どうして営業部の人間の頑張りを評価しようとせず、けなすようなことばかり言うんですか?あなたの仕事は社員の士気を下げることですか?」
「なっ……。若造のくせに何を言うんだ……!部長の俺が部下になんていったってアンタには関係のないことだろう!」
みんなの前で指摘された部長が顔を真っ赤にして唾を飛ばして言い返す。
「でしたら、言わせていただきます。私はあなたより年下ですが、役職は上です。肩書だけで仕事もせず文句ばかり垂れる人間はこの営業部にはいらない。あなたのモラハラ、パワハラ、セクハラなど目に余る行為は上に報告してありますのであしからず」
智哉さんの言葉に、部内から歓声にも似た声と盛大な拍手が上がる。
「なっ、お前たち……今拍手した奴ら全員この目に焼き付けたからな!!」
部長は部内の人間を睨みつけると、逃げる様にフロアから出ていった。
私は慌てて智哉さんに歩み寄り、声を掛けた。
「大丈夫ですか?部長ってねちっこい人間ですよ。前の局長もパワハラで追い出しましたし……」
「ああ、それなら安心して。それに、ねちっこいのは俺も一緒だから。初日に部長が俺の紹介をしたでしょ?あれ、内心腹立っててやり返す機会をうかがってたってんだよね」
「確かにあれは酷かったですからね」
今まで部長に苦しめられてきた部内の人間は、私を含めて大勢いる。その誰もがホッと安堵した様子を見せた。
「俺はこれからも自分が正しいと思うことを貫き通すよ」
智哉さんという新しい風が入り、営業部も変わる予感がした。
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