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第六章 芽生えた感情

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「ありがとう。奈々子もこれから楽しみだね」

ニヤリと笑う私に奈々子はシレっと答える。

「あたしは全然よ~。そりゃ、良いご縁があれば嬉しいけど、言い寄ってきてくれる人なんていないもん」

チラリと冬野くんに視線を向ける。
冬野くんと目が合う。
アタックするなら今しかない。私が大きく頷くと、冬野くんが「あのっ!」と声を上げた。

「なっ、なに。どうしたの、大きな声出して」

奈々子が驚いたように冬野くんに目を向ける。

「俺、これからも新村さんの役に立てる様に頑張りますから!」

冬野くんは顔を真っ赤にして叫ぶ。
途端、やっちまったというように顔をしかめる。
奈々子と智哉さんがポカンッとした表情を浮かべる。
本当ならば何か気の利いた言葉で奈々子に自分の存在をアピールしたかったに違いない。
だけど、それをうまくできない不器用なところが冬野くんらしい。

「あら、嬉しい!ありがとう。期待してるからね!」

冬野くんの言葉に奈々子が嬉しそうに微笑むと、それにつられて冬野くんも渋い顔で笑った。
時間はかかるかもしれないけど、二人ならきっといい関係を築いていけるような気がした。

それから、智哉さんは車から外したチャイルドシートを冬野くんの黒いSUV車に移した。

「ここの部分にシートベルトを通すんだ」
「あ、ここですか?」
「そうそう」

冬野くんは真剣な表情で智哉さんからつけ方のレクチャーを受ける。

「じゃあ、また会社でね!ホント色々お世話になりました。ありがとう~!って、あ、そうだ!!」

冬野くんの車に乗り込んだ奈々子は何かを思い出したのか、持っていたバッグの中を漁り始めた。

「二枚あるから、伍代さんと一緒に行って来たら?」

奈々子が差し出したのは、隣町に新しくできた猫カフェの無料券だった。

「いいの?嬉しい!」
「もちろん!今度、必ずお礼するから。またね!」
「ばいばい!」

小さな手のひらを可愛らしく振る春ちゃんに、私と智哉さんは微笑んで手を振り返した。
車が駐車場から出て行くのを見届けると、智哉さんは「彼は新村さんが好きなの?」と尋ねた。

「そうですよ。冬野くん、すごい分かりやすいじゃないですか」
「それならいいんだ。俺はてっきり実咲のことを……」
「え。私?」

聞き返すと、智哉さんはなんでもないよと私の肩に腕を回す。

「猫カフェ、せっかくだし今日行こうか。どう?」
「行く。行きます!!」

食い気味に答えた私に智哉さんは優しい眼差しを向けたのだった。
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