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第六章 芽生えた感情
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しおりを挟む買い物を終えて家に帰ると、奈々子からマンションの前に着いたという連絡が入った。
預かっていた春ちゃんの荷物を持ってエントランスを抜け、駐車場へ移動する。
すると、そこにいたのは奈々子だけではなかった。
「ままーー!!」
「春~!!いい子にしてたぁ?」
両手を広げながら駆け寄る春ちゃんを、奈々子が愛おしそうにギュッと抱き上げる。
その隣には少し照れくさそうな様子の冬野くんの姿があった。
「おはようございます」
私と智哉さんに小さく頭を下げて挨拶する冬野くん。
彼は私と智哉さんが一緒にいるところを見ても驚いた様子を見せなかった。
きっとおしゃべりな奈々子のことだし、私と智哉さんのことをあれこれ冬野くんに話したに違いない。
冬野くんは仕事の時と違い、左耳にはシルバーのループピアスをしている。
黒い薄手のシャツに同色系の黒パンを合わせたカジュアルなコーデだけど、サッパリした涼し気な顔の彼にはよく似合っている。
それに、スーツを脱ぐとさらに若々しさが際立つ。
「二人は、どうして一緒にいるんですか?」
智哉さんが奈々子と冬野くんを不思議そう見つめた。
「実は昨日の夜、冬野くんから連絡をもらったんです。何かできることはないかって。その言葉に甘えて、仕事を手伝ってもらっちゃいました」
「昨日の夜……」
智哉さんはそう呟き、考えを巡らせていた。
「彼、優秀なんですよ。二人でアイデア出し合ってたらあれよあれよという間に形になって、本当に助かっちゃいました」
奈々子に褒められた冬野くんはまんざらでもなさそうに頬を緩める。
わかりやすい彼の反応が可愛い。
「しかも、春を迎えに行くって話をしたら車で送ってくれたの。もう、最高すぎない?感謝しかないよ」
「いえ、俺は全然。少しでも新村さんの役に立ててよかったです」
彼は心底奈々子に惚れ込んでいるらしい。
「伍代さんにも本当に色々お世話になりました」
「いえ、春ちゃんと遊べてすごく楽しかったです。ぐずったりすることもなく、常ににこにこ笑顔でこっちが癒されました」
「それは、伍代さんパワーですよ。ママに似てイケメン好きなのよね、春~?」
奈々子と智哉さんが言葉を交わしていると、冬野くんが私に近付き耳元でそっと囁いた。
「昨日は本当にありがとうございました。おかげで新村さんと――」
吐息がくすぐったくって思わず肩を竦める。
「なにコソコソ話してるのかな?」
すると、智哉さんが冬野くんと私の間に割って入った。顔は笑っているけど、目は笑っていない。
それに気付いた冬野くんが、私と智哉さんの顔を交互に見つめる。
「新村さんにちょっとだけ話は聞いたんですけど、あのっ、お二人って……」
「実は、昨日付き合うことになったんだ。だから、今後は距離感に気を付けてね」
独占欲丸出しで私の腰に腕を回して自分のほうに引き寄せる智哉さん。
「えっ!?そうなの!!おめでとう!!あたし、ずっとお似合いだと思ってたのよ~!よかったね、実咲!」
智哉さんの言葉に奈々子がいち早く反応した。
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