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第六章 芽生えた感情

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翌朝、目を覚ました春ちゃんは室内をキョロキョロと見回した。

「ママは?」

枕元の時計を確認すると、七時を回ったところだ。
朝までぐっすりと眠ってくれて本当に助かった。
まだ眠気眼で、ピョンっと前髪に寝ぐせのついた春ちゃんに私はそっと微笑む。

「ママはまだお仕事してるよ。今日の夕方に帰るからそれまでみーちゃんとともくんと一緒に遊ぼう?」
「……うん」

さすがに二日目ともなり、目覚めた瞬間に奈々子がいなかったせいか春ちゃんの顔に元気がない。
洗面所で顔を洗うと、ひとまずリビングに行こうと促して、手を繋いで歩き出す。
智哉さんのマンションの近くにはコンビニがあった。
そこで全員の朝ご飯を調達してこよう。
そんなことを考えながらリビングへ入ると「おはよう」とキッチンに立つ智哉さんがにこりと笑った。
昨日のことを思い出すとなんだかちょっぴり照れくさい。

「おはようございます」
「おはよう。ちょうど朝ご飯ができたんだよ。二人とも、座って?」

智哉さんは私たちをダイニングテーブルに座らせると、プレートを運んできた。

「クマさんだ!かわいい!!」

春ちゃんの前にホットケーキが置かれる。
丸く小さなサイズで焼かれたホットケーキにはチョコペンでクマの顔が書いてある。
付け合わせに、サラダとスクランブルエッグとカリカリに焼かれたベーコンが添えられている。

「喜んでもらえてよかった。食べようか」
「うん!」

春ちゃんを抱っこして椅子に座らせると、春ちゃんはにこにこと可愛らしい笑みを浮かべながら朝ご飯を食べ始めた。

「俺たちも食べようか」

こういうことをサラッとやってのける智哉さんはお世辞抜きにスパダリだった。
「いただきます」と両手を合わせてから食べ始める。

「今日はなにをしましょうか?」
「春ちゃんが喜びそうなところに連れて行ってあげようか。動物園とか、遊園地とか」
「いいですね!」

智哉さんの意見に同意したタイミングでスマホが鳴りだした。
電話は奈々子からで、予定よりも仕事が早く終わった為、春ちゃんを迎えに来るという。
智哉さんが「送っていく」と言っても、奈々子はそこまでしてもらうのは申し訳ないの一点張りだった。

朝食を済ませると、奈々子が迎えに来るまでの間、春ちゃんを膝の上に乗せてお気に入りの絵本を読み聞かせる。
智哉さんはそんな私たちを温かく見守りながら、朝食の片付けをしてくれている。

「すると、ウサギちゃんが言いました。私たちと一緒にあそぼうよ~」

春ちゃんは食い入るように絵本を見つめる。真剣な春ちゃんの表情が可愛くて、つい笑みが漏れる。
扱いはうまくないけれど、子供は好きだ。
純粋な眼差しも無邪気な笑顔も見ているだけで癒される。
膝の上に感じる重みも柔らかさも温もりも、そのすべてが愛おしい。こういうのを母性というんだろうか……?

「……おしまい!」
「ふふっ、おもしろかったー!」

振り返ってにこにこ笑顔の春ちゃんをギューッと後ろから抱きしめる。
なんて可愛いんだろう。
春ちゃんを預かったときは不安もあったけど、今は奈々子に返すのが寂しいぐらいだ。

「春ちゃん、またみーちゃんと遊んでね?あっ、そうだ。ママが来るまで少しだけ時間があるから、ちょっとだけお買い物にいかない?」
「うん!!」
春ちゃんと手を繋いで玄関で靴を履く。
うまく足が入らなくて悪戦苦闘する春ちゃんの背後から智哉さんがやってきた。

「俺も行っていい?」
「もちろんです」

私たち3人は春ちゃんを真ん中に手を繋いで歩き出す。

「こうやってると、俺たちの子供みたいだ」

智哉さんが嬉しそうに目を細める。

「ふふっ、そうですね」
「実咲はいいお母さんになりそうだね」
「うーん、どうでしょう。でも、子供の扱いは智哉さんの方が上ですね」

私の言葉に智哉さんは深々と頷く。

「まあ、それは認めるよ」
「なっ……!失礼な!」

ハハッと白い歯を見せて笑う彼に心臓がトクンッと音を立てる。
いつか彼と家族になり、子供が産まれたら……。
そんな未来を想像すると、胸の中がじんわりと熱くなった。
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