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第六章 芽生えた感情
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「よかったら、飲んで?」
「……ありがとうございます」
伍代さんの淹れてくれたハーブティのいい匂いに包まれるリビング。私たちは揃ってソファに座った。
「突然いろいろなことを言われて混乱したよな。ごめん。とりあえず、JJTのコンペが終わって少し落ち着いた頃にきちんと話そうと思ってたんだ」
「確かに混乱はしています。でも、さっきの幸子ちゃんの話で伍代さんの不思議な言動の理由が分かりました」
彼が私を誰かと勘違いしていると思っていたけど、そうではなかった。
彼は最初から私をフミとして認識していたんだ。
「私……、正直今ホッとしてます。伍代さんが私にアプローチしてくる理由がハッキリしたので。会社でも悪女って言われてる私にどうして興味を持つのかわからなかったから」
「俺は実咲が誰になんて言われようと、関係ない。そのままの実咲が好きだから」
彼は淀みのない口調でハッキリと私に愛を告げる。
「今まで隠していたみたいになって悪かった。でも、もう嘘はなにもないから」
「私……ずっと伍代さんに遊ばれていると思っていました……。だから、あなたに気持ちを告げられても、素直になれなかったんです」
伍代さんは真っすぐ私を見つめる。
「だけど……そうやって好きだと言ってくれるのも、甘やかしてくれるのも、伍代さんだけ。最初は伍代さんの言葉も態度も全部信じられなかった。でも、今は……違います。私のことをちゃんと想ってくれているって信じたい……」
「実咲……」
伍代さんは私の手をギュッと握って茶色い瞳を私に向けた。
「もうこの手を離したくない。俺と付き合ってほしい。必ず幸せにするから」
その言葉に、心の中が熱い感情で満たされる。今まで彼に恋に落ちないように必死に理性で押さえつけていた。
でも、もうその必要はない。
止まってしまっていた時計の針を進めて、一歩を踏み出したい。
もう私の中で答えは決まっていた。
「……はい」
小さく頷く。体中に喜びが満ちて胸が打ち震える。
気持ちが通じ合い、こんな幸せがあっていいのかと思うぐらい、胸の中が温かい感情でいっぱいになる。
「ていうことは、もう我慢しなくていいってことだよね?」
「えっ、ちょっ、伍代さん?」
グッと腰に腕を回されて抱き寄せられる。彼の大きな胸の中に私の体はすっぽりと収まった。
「伍代さんっていうの、もう禁止。智哉って呼んで」
「そ、そんなの無理です!それなら、智哉さん……で」
照れる私の顔を覗き込みながら、智哉さんがそっと頬に手を添えた。
「実咲の照れてる顔、可愛い」
耳元で艶のある声で囁かれて、心拍数が跳ねあがって顔が熱くなる。
「こっち見て」
伏し目がちに私の唇に視線を落とす智哉さん。顔が徐々に近付き、唇が触れ合った。
一度目はすぐに離れる。けれど、すぐにまた訪れたキスは長く深いものだった。
「んんっ……」
逃げられないように私の首の後ろに左手を当て、まるで私の唇を味わう様にキスを落とされる。
唇を割って、舌が差し込まれる。縮こまって喉奥に逃げようとする私の舌を絡め取り、吸い上げられた。
瞬間、腰が砕けたみたいに、全身の力がゆるゆると抜けていく。
「あっ……」
喘ぐような声に智哉さんはくすっと笑うと、今度は首筋に舌先を這わせた。
優しく唇で吸われたり、舌先でなぞられてゾクゾクとたまらない気持ちになる。
くすぐったいようなじれったいような、不思議な感覚の私の反応を確かめたあと、彼は私の体をソファに押し倒した。
「そんな顔されると止まらなくなるんだけど」
「智哉さんの……意地悪……」
「うん、俺は意地悪だよ。実咲にだけね」
私たちはようやく通じ合った互いの気持ちを確かめ合うように、何度も唇を重ね合わせる。
「……ありがとうございます」
伍代さんの淹れてくれたハーブティのいい匂いに包まれるリビング。私たちは揃ってソファに座った。
「突然いろいろなことを言われて混乱したよな。ごめん。とりあえず、JJTのコンペが終わって少し落ち着いた頃にきちんと話そうと思ってたんだ」
「確かに混乱はしています。でも、さっきの幸子ちゃんの話で伍代さんの不思議な言動の理由が分かりました」
彼が私を誰かと勘違いしていると思っていたけど、そうではなかった。
彼は最初から私をフミとして認識していたんだ。
「私……、正直今ホッとしてます。伍代さんが私にアプローチしてくる理由がハッキリしたので。会社でも悪女って言われてる私にどうして興味を持つのかわからなかったから」
「俺は実咲が誰になんて言われようと、関係ない。そのままの実咲が好きだから」
彼は淀みのない口調でハッキリと私に愛を告げる。
「今まで隠していたみたいになって悪かった。でも、もう嘘はなにもないから」
「私……ずっと伍代さんに遊ばれていると思っていました……。だから、あなたに気持ちを告げられても、素直になれなかったんです」
伍代さんは真っすぐ私を見つめる。
「だけど……そうやって好きだと言ってくれるのも、甘やかしてくれるのも、伍代さんだけ。最初は伍代さんの言葉も態度も全部信じられなかった。でも、今は……違います。私のことをちゃんと想ってくれているって信じたい……」
「実咲……」
伍代さんは私の手をギュッと握って茶色い瞳を私に向けた。
「もうこの手を離したくない。俺と付き合ってほしい。必ず幸せにするから」
その言葉に、心の中が熱い感情で満たされる。今まで彼に恋に落ちないように必死に理性で押さえつけていた。
でも、もうその必要はない。
止まってしまっていた時計の針を進めて、一歩を踏み出したい。
もう私の中で答えは決まっていた。
「……はい」
小さく頷く。体中に喜びが満ちて胸が打ち震える。
気持ちが通じ合い、こんな幸せがあっていいのかと思うぐらい、胸の中が温かい感情でいっぱいになる。
「ていうことは、もう我慢しなくていいってことだよね?」
「えっ、ちょっ、伍代さん?」
グッと腰に腕を回されて抱き寄せられる。彼の大きな胸の中に私の体はすっぽりと収まった。
「伍代さんっていうの、もう禁止。智哉って呼んで」
「そ、そんなの無理です!それなら、智哉さん……で」
照れる私の顔を覗き込みながら、智哉さんがそっと頬に手を添えた。
「実咲の照れてる顔、可愛い」
耳元で艶のある声で囁かれて、心拍数が跳ねあがって顔が熱くなる。
「こっち見て」
伏し目がちに私の唇に視線を落とす智哉さん。顔が徐々に近付き、唇が触れ合った。
一度目はすぐに離れる。けれど、すぐにまた訪れたキスは長く深いものだった。
「んんっ……」
逃げられないように私の首の後ろに左手を当て、まるで私の唇を味わう様にキスを落とされる。
唇を割って、舌が差し込まれる。縮こまって喉奥に逃げようとする私の舌を絡め取り、吸い上げられた。
瞬間、腰が砕けたみたいに、全身の力がゆるゆると抜けていく。
「あっ……」
喘ぐような声に智哉さんはくすっと笑うと、今度は首筋に舌先を這わせた。
優しく唇で吸われたり、舌先でなぞられてゾクゾクとたまらない気持ちになる。
くすぐったいようなじれったいような、不思議な感覚の私の反応を確かめたあと、彼は私の体をソファに押し倒した。
「そんな顔されると止まらなくなるんだけど」
「智哉さんの……意地悪……」
「うん、俺は意地悪だよ。実咲にだけね」
私たちはようやく通じ合った互いの気持ちを確かめ合うように、何度も唇を重ね合わせる。
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