76 / 100
第六章 芽生えた感情
15
しおりを挟む
「お兄ちゃん、フミちゃんを亡くしてからずっと後悔ばかりの日々を送っていたの……。女遊びも一切辞めて、結婚もせず、毎日フミちゃんのお墓に会いに行ってた」
「そんなことが……」
正直、話を聞いてもまだその事実を受け入れることはできない。
だけど、もし仮にその話が本当だったとしたら、今までの伍代さんの不思議な言動にも全て説明がつく。
「お兄ちゃん、ずっとフミちゃんのことを探してたの。いつか絶対また巡り合えるって信じて。だから、イギリスで仕事してる時にたまたま東光エージェンシーの広告に載ってるフミちゃん、じゃなくて実咲ちゃんを見つけてお兄ちゃんホントに嬉しそうだった」
「やめろ、幸子。余計なことは言わないでいい」
照れくさそうな伍代さんなんてお構いなしに幸子ちゃんが続ける。
「会社で初めて実咲ちゃんと会った日なんて、興奮して電話までかけてきたんだよ。あれは間違いなくフミだったって。俺のことは忘れてるけど、しゃべり方も、佇まいも全部フミと一緒だって物凄い喜びかただったんだから」
「幸子、それ以上言うな」
伍代さんは、たまらないとばかりに表情を顰めてうな垂れる。
「でもね、あたしもずっとフミちゃんに会いたかったの。だから、会えてよかった」
「ま、待って。私とそのフミちゃんが同一人物だっていう保証はないのよ?ただ顔が似ているだけで別人の可能性だってあるし」
「ううん、実咲ちゃんは絶対にフミちゃんの生まれ変わりだよ。話し方とか雰囲気とか、時代は違ってもそういうのって変わらないし」
幸子ちゃんが確信を持ったように言う。
「全部、本当なんですか?」
伍代さんに視線を向けると、彼は深く頷いた。
「ずっと後悔してたんだ。フミが他の男の嫁になると知って自暴自棄になって女遊びをしてフミを悲しませてしまったことも、フミに自分の気持ちを伝えなかったことも……。なにより、一人で逝かせてしまったことをずっと悔やんでた。だから、もしまた会えたら今度こそ絶対に幸せにするって決めてた」
「なんか……複雑です。伍代さんが好きになったのはフミちゃんなわけで……」
だけど、二人の話の信憑性は高い。
初めて彼を見たとき、確かに既視感を覚えたのだ。
どこかで会っているような、懐かしいような、そんな感情が体の奥底から湧き上がってきた。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺は実咲が好きだ」
妹の幸子ちゃんの前にも関わらず、伍代さんは真っすぐ私の目を見て気持ちを口にする。
それを見ていた幸子ちゃんは口に両手を当て、驚いたように目を見開く。
「なんかお邪魔みたいだし、あたし帰るね。実咲ちゃん、これからもよろしくね」
「あ……、はい」
「やだなぁ、実咲ちゃん。敬語なんて使わないでいいよ」
慌ただしく帰る支度を済ませて、にこやかに立ち上がる幸子ちゃん。
「そうそう。お兄ちゃんの車にピアス落ちてなかった?あれ、彼氏からもらった大切なものなの」
「お前、それをわざわざ取りに来たのか?」
「そうだよ。夕方何度も車の中を探してってメッセージ送ったのに、『今忙しいから無理』ばっかりなんだもん。だから、直接取りに来たってわけ」
伍代さんはリビングの奥から持ってきたピアスを幸子ちゃんに差し出した。
それは、以前私が拾ってコンソールに入れたゴールドのループ型のピアスだった。
「あー、よかった!ありがと」
玄関まで見送ると、幸子ちゃんは無邪気な笑顔を浮かべて去っていく。
その場に残された私の手に伍代さんがそっと触れる。
「ちゃんと二人っきりで話がしたい。いい?」
大きくて温かい手のひらの熱に、心臓がトクンッと震える。
彼と目が合い、私はこくりと深く頷いた。
「そんなことが……」
正直、話を聞いてもまだその事実を受け入れることはできない。
だけど、もし仮にその話が本当だったとしたら、今までの伍代さんの不思議な言動にも全て説明がつく。
「お兄ちゃん、ずっとフミちゃんのことを探してたの。いつか絶対また巡り合えるって信じて。だから、イギリスで仕事してる時にたまたま東光エージェンシーの広告に載ってるフミちゃん、じゃなくて実咲ちゃんを見つけてお兄ちゃんホントに嬉しそうだった」
「やめろ、幸子。余計なことは言わないでいい」
照れくさそうな伍代さんなんてお構いなしに幸子ちゃんが続ける。
「会社で初めて実咲ちゃんと会った日なんて、興奮して電話までかけてきたんだよ。あれは間違いなくフミだったって。俺のことは忘れてるけど、しゃべり方も、佇まいも全部フミと一緒だって物凄い喜びかただったんだから」
「幸子、それ以上言うな」
伍代さんは、たまらないとばかりに表情を顰めてうな垂れる。
「でもね、あたしもずっとフミちゃんに会いたかったの。だから、会えてよかった」
「ま、待って。私とそのフミちゃんが同一人物だっていう保証はないのよ?ただ顔が似ているだけで別人の可能性だってあるし」
「ううん、実咲ちゃんは絶対にフミちゃんの生まれ変わりだよ。話し方とか雰囲気とか、時代は違ってもそういうのって変わらないし」
幸子ちゃんが確信を持ったように言う。
「全部、本当なんですか?」
伍代さんに視線を向けると、彼は深く頷いた。
「ずっと後悔してたんだ。フミが他の男の嫁になると知って自暴自棄になって女遊びをしてフミを悲しませてしまったことも、フミに自分の気持ちを伝えなかったことも……。なにより、一人で逝かせてしまったことをずっと悔やんでた。だから、もしまた会えたら今度こそ絶対に幸せにするって決めてた」
「なんか……複雑です。伍代さんが好きになったのはフミちゃんなわけで……」
だけど、二人の話の信憑性は高い。
初めて彼を見たとき、確かに既視感を覚えたのだ。
どこかで会っているような、懐かしいような、そんな感情が体の奥底から湧き上がってきた。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺は実咲が好きだ」
妹の幸子ちゃんの前にも関わらず、伍代さんは真っすぐ私の目を見て気持ちを口にする。
それを見ていた幸子ちゃんは口に両手を当て、驚いたように目を見開く。
「なんかお邪魔みたいだし、あたし帰るね。実咲ちゃん、これからもよろしくね」
「あ……、はい」
「やだなぁ、実咲ちゃん。敬語なんて使わないでいいよ」
慌ただしく帰る支度を済ませて、にこやかに立ち上がる幸子ちゃん。
「そうそう。お兄ちゃんの車にピアス落ちてなかった?あれ、彼氏からもらった大切なものなの」
「お前、それをわざわざ取りに来たのか?」
「そうだよ。夕方何度も車の中を探してってメッセージ送ったのに、『今忙しいから無理』ばっかりなんだもん。だから、直接取りに来たってわけ」
伍代さんはリビングの奥から持ってきたピアスを幸子ちゃんに差し出した。
それは、以前私が拾ってコンソールに入れたゴールドのループ型のピアスだった。
「あー、よかった!ありがと」
玄関まで見送ると、幸子ちゃんは無邪気な笑顔を浮かべて去っていく。
その場に残された私の手に伍代さんがそっと触れる。
「ちゃんと二人っきりで話がしたい。いい?」
大きくて温かい手のひらの熱に、心臓がトクンッと震える。
彼と目が合い、私はこくりと深く頷いた。
1
お気に入りに追加
366
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」
「え、じゃあ結婚します!」
メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。
というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。
そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。
彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。
しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。
そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。
そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。
男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。
二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。
◆hotランキング 10位ありがとうございます……!
――
◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜
当麻月菜
恋愛
「さっそくだけれど、ここに座ってスカートをめくりあげて」
「はい!?」
諸般の事情で寄る辺の無い身の上になったファルナは、街で見かけた求人広告を頼りに面接を受け、とある医師のメイドになった。
ただこの医者──グリジットは、顔は良いけれど夜のお薬を開発するいかがわしい医者だった。しかも元国王陛下だった。
ファルナに与えられたお仕事は、昼はメイド(でもお仕事はほとんどナシ)で夜は治験(こっちがメイン)。
治験と言う名の大義名分の下、淫らなアレコレをしちゃう元国王陛下とメイドの、すれ違ったり、じれじれしたりする一線を越えるか超えないか微妙な夜のおはなし。
※ 2021/04/08 タイトル変更しました。
※ ただただ私(作者)がえっちい話を書きたかっただけなので、設定はふわっふわです。お許しください。
※ R18シーンには☆があります。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる