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第六章 芽生えた感情

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春ちゃんがぐっすり眠ったのを見届けてから寝室を出る。
現在の時刻は、二十二時少し前。
奈々子に『春ちゃんもう寝たよ。仕事頑張って!』というメッセージとともに今日撮った写真も添付した。
すると、『ほんとありがとう!伍代さん、イケメン!最高!』という返事がすぐに届いた。

電気の付いているリビングに向かう途中、突然スマホが鳴りだした。
俊介からの電話かもしれないと身構えながら画面を見ると、表示されていたのは冬野くんの名前だった。

「冬野くん、どうしたの?」

彼が休日のこんな時間に電話をかけてくるなんて珍しい。
なにかトラブルでもあったのかと心配しながら電話に出る。

『白鳥さん、こんな時間にすみません。俺です。冬野です』
「あーうん、知ってる。どうしたの、そんなに慌てて」

なぜか冬野くんの声が上ずっている。

『実は、さっきクリエイティブの同期から連絡があって。新村さんが仕事でトラブってるって話を聞いてなんかいてもたってもいられなくなって……。それで……』
「うん」
『新村さんの為に俺にできることって何だろうって考えてたんですが、思い浮かばなくて……。クリエイティブにいるときから新村さんにはすごいお世話になってたんです。白鳥さん、俺にできることってありますかね?』

なるほど。私は今の冬野くんの言動で核心を持った。

「冬野くんってさ、奈々子のこと好きだよね?」
『えっ!?な、なんでですか?』

電話口からバンッと何かが落ちる男がした。きっと、言い当てられた彼は今相当焦っているに違いない。
分かりやすく狼狽える冬野くんに思わず苦笑いを浮かべる。

「前からそうかなぁって気がしてたんだけどね。無意識だと思うけど、冬野くんって奈々子の話よくするし」
『うわっ、マジですか……。ハァ……隠してたんだけどな……』
「奈々子に言ったりしないから安心して。ただ、あの子って仕事となるとホント寝ることも食べることも疎かになっちゃうから、その点心配なの。もしどうしても気になるなら、電話してなにか手伝えることがあるか本人に直接聞いてみたら?間違ってもこんな時間にアポなしで自宅訪問したりしちゃダメよ」

今も奈々子はきっと、ちょんまげ前髪にスッピンだろう。

『でも、迷惑じゃないですかね……』
「奈々子は人の厚意を迷惑なんて思わないよ。それは、冬野くんだって知ってるでしょ?」

私の言葉にほんのわずかに沈黙した後、『新村さんに連絡してみます』と冬野くんは決意を込めたように言った。

「そうしなよ。頑張ってね」

電話を切った私はふっと笑った。
奈々子も冬野くんのことを可愛がっていたし、いまだに彼を心配している様子だった。
あの二人……もしかすると、もしかするかも?

そんなことを考えながらリビングの扉を開けると、ダイニングテーブルでPCに向き合っていた伍代さんがこちらに顔を向けた。

「春ちゃん、寝た?」
「はい。疲れていたみたいでぐっすりです」
「そっか。よかった。実咲も疲れただろうし、ゆっくりしなよ」
「ありがとうございます」

ソファに座るように促されて腰掛けると、自然な動きで隣に伍代さんが座った。

「そういえば、さっき誰かと電話してた?声がした気がしたんだけど」
「ああ、今冬野くんから電話がかかってきたんですよ」
「……休みのこんな時間に?どうして?」

伍代さんはいぶかし気に私を見つめる。

「ちょっと相談に乗ってほしいことがあったみたいで。でもなんか、冬野くんの可愛いところが見れて、ほっこりした気持ちになりました」

奈々子へなにかをしてあげたいけどなにをしたらいいのか分からず、私に電話をかけてくるなんて健気で可愛すぎる。
口が悪くちょっとやんちゃ気味な彼が好きな人のピンチに焦る。
そのギャップに不覚にも母性本能をくすぐられてしまった。

「彼とずいぶん仲良しなんだね」
「ふふふっ、冬野くんと私がですか??まあ、ある意味仲良しですかね」

冬野くんの好きな人は、私の親友の奈々子なんだから。
彼が今、ドキドキしながら奈々子に電話をかけているところを想像すると、自然に口元が緩んだ。
あとで奈々子を問いたださなくちゃ。

「さっきから、彼の話ばっかりだね」

不満気に言うと、伍代さんは私の肩を掴みソファに押し倒した。

「え……?」
「俺がなにもしないと思って安心してる?」
「ちょっ、伍代さん?」

ふざけているのかと思ったものの、彼の目は真剣そのものだった。

「俺さ、今必死に理性と戦てるんだよね」
「っ……」

私はごくりと唾を飲み込んだ。
お互いの視線が熱く絡み合った瞬間、胸の奥から熱い感情がこみ上げてきた。
必死に抵抗を続けてきたけど、もう抗えないかもしれない。
伍代さんの唇がゆっくり近付いてくる。

「ちょっ……待って……」
「待てないって言ったら?」

伍代さんの腕にそっと右手が触れた。
筋肉質で引き締まった彼の腕。この腕で抱かれたあの晩の記憶が鮮明に蘇ってくる。

互いの息遣いすら聞こえてきそうな距離になった時だった。
『ピーンポーン』という音がして互いの動きがぴたりと止まった。

「あのっ、誰か来ましたけど……?」
「こんな時間に誰だ」

私の腕を掴んでゆっくりと体を起き上がらせたとき、再び玄関のチャイムが鳴った。
それどころか、来訪者は苛立つように何度もチャイムを連打する。
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