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第六章 芽生えた感情
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しおりを挟むこの日の夜、慰労会を開催した伍代さんはチームメンバーに高級寿司を振る舞ってくれた。
全員が美味しいお寿司に舌鼓を打ち、プレゼン話に花を咲かせる。
「斎藤さんのダンス、あまりにも下手すぎて笑えたんですけどぉ」
「しょうがないじゃないですか。私は皆さんよりおばさんなんですから」
普段はパートだからと飲み会などには参加しない斎藤さんも、今日はお子さんを旦那さんに預けて参加した。
心なしか以前は猫背だった彼女の背筋がスッと伸びている。
仕事をやり切り開放的になっておしゃべりするメンバーを伍代さんは優しい眼差しで見つめている。
大丈夫かな……。
周りの人に悟られないように振る舞っているものの、疲れは限界だろう。
今回のコンペを無事に成功させることができたのは、伍代さんの力が大きい。
私たちが知らないところで彼が動き回っていたことはあちこちの部署の人間から聞いている。
程よい酔いが回り気分の良くなったところで解散となった。
全員分の会計をスマートに済ませた伍代さんはタクシー代まで握らせた。
店を出てタクシーを待つ間、私は取り出したスマホに目を落として溜息を吐いた。
……まただ……。心の中で呟く。
着信履歴が俊介の番号で埋まっている。
それどころか、ショートメールまで複数回送りつけられている。
私はやれやれとスマホをポケットに押し込んだ。
「伍代さんって、上司としてデキ過ぎじゃないですか~!あたし、伍代さんみたいな人とお付き合いしたいですぅ~」
黒川さんが伍代さんの腕に自分の腕を絡めてしなだれかかった。
「申し訳ありませんが、黒川さんとは付き合えません」
彼はキッパリ断り、自分の腕から黒川さんの腕を引き離した。
「あたし、伍代さんになら遊ばれてもいいんですけど」
「黒川さん、酔い過ぎです。伍代さんを困らせてはいけませんよ」
斎藤さんに諫められても、酔っぱらった黒川さんは止まらない。
「あたし、これからの人生で伍代さん以上にハイスペックな人と出会えると思えないんですけどぉ~」
「ちょっと、大丈夫?」
私はフラフラする足取りの黒川さんの腰に腕を回して、ぐっと体を支えた。
「そう言ってもらえるのがはありがたいですが、私は遊びで誰かと付き合ったり関係を持ったりしません。私が手に入れたいと思う女性は一人だけなので」
彼は穏やかな口調ながらも、ハッキリそう告げた。
「えぇ~、伍代さんにそう言ってもらえる人って前世でどれだけ得積んだんですかぁ!いいなぁ。あたしもいつか……あぁ、なんか眠くなってきちゃったぁ」
ようやくタクシーがやってきた。
家の近い黒川さん、冬野くん、斎藤さんの三人が一緒にタクシーの乗り込む。
「お疲れさまでした」
手を振ってタクシーを見送ると、伍代さんは次にやってきたタクシーを止めた。
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