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第五章 不穏と波乱
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しおりを挟む「最初から実力のある人なんていないわ」
「白鳥さんは違います。あたしはいつも白鳥さんと比べられてた。一年前の白鳥はもっと仕事を覚えるのが早かったとか白鳥はもっと要領がよかったとか……。上司はみんなあたしと白鳥さんを比べるんです。でも、無理ですよ。あたしは白鳥さんじゃないもん。どんなに頑張ったって白鳥さんみたいにはなれない」
ポロリと黒川さんの目から涙が零れ落ちる。それを拭うことなく、彼女は言った。
「だから、あたしは白鳥さんとは違う方法で営業部に居場所を作ろうとしました。可愛い子ぶって、上司に媚びて……。その憂さ晴らしをするために白鳥さんの悪口を言って、斎藤さんをイジメて……。でも、そんなことする自分がどんどん嫌になって……。もうあたし、どうしたらいいのか分からないんです」
「黒川さん……」
「でも、今回のことは全部あたしが悪いってことだけは分かってます……。だから、責任をとるために辞めようかな。もうあたしの居場所はないだろうし……」
「――逃げるの?」
私の言葉に黒川さんがギュッと唇を噛みしめた。
「ここで逃げるのは簡単よ。だけど、逃げた先にあなたの求めるものはあるの?自分でも言ってたじゃない。東光エージェンシーていう肩書がなくなったら終わりだって」
「でも、どうせクビでしょ?だったら、自分から辞めたほうがいいじゃないですか」
「誰がクビなんて言ったの?」
「……違うんですか?」
彼女が驚いたように顔を持ち上げてすがるような眼を私に向けた。
「私はそんなこと一言も言ってないわ。それにね、黒川さんにはこのチームでやるべきことがある。実力がないなら経験を積むしかないでしょ」
「経験を……?」
「私があなたに口うるさく言うのは、あなたならできると思ってるから。あなたが望むなら仕事も教える。仕事ができるようになって自信がつけば、男に媚びる必要なんてなくなる。そうでしょ?」
黒川さんの目が再び潤む。
「どうしてあたしなんかを助けてくれるんですか……?あたしが白鳥さんを悪女って悪く言ってたのだって知ってますよね?それなのに、どうして……」
私はにっこりと微笑んだ。
「どうしてって、今回のコンペに勝つために決まってるでしょ。前にも言ったでしょ。私には女性初の営業部部長になるっていう野望があるの。あなたの言う通り、私は悪女よ。自分の利益の為なら、何でもするわ」
黒川さんは驚いたように私を見つめた後、クスクスと笑った。
「降参します。あたし、絶対に白鳥さんには勝てないや……」
「当たり前でしょ。私に勝てると思うなんて100万年早いわ」
目を見合わせて、私たちは同時に吹き出した。
「今まで本当にすみませんでした。今日から気持ちを切り替えて頑張ります。自分にもっと自信を持ちたいから」
黒川さんの言葉に嘘はないだろう。涙を拭うと、黒川さんは私を真っすぐ見つめた。
「それで、あたしは何をすればいいんですか?」
待ってましたとばかりに、私は黒川さんに今後のプランの説明をした。
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