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第五章 不穏と波乱

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「この度は、申し訳ありませんでした」

ミーティングルームに入ると、室内の空気はピリピリと張り詰めていた。
冬野くんとバトンタッチするように室内に入った私と黒川さんは、目を吊り上げる宣伝部長に頭を下げた。

「状況を説明してもらえる?どうして御社の営業部の人のSNSにうちの娘の話が出てるの?」

事の顛末を説明すると、宣伝部長は呆れと怒りを混ぜたような溜息を吐いた。

「黒川の軽率な行動により多大なるご迷惑とご心配をおかけして申し訳ありません。投稿はすぐに削除させました。今後このようなことがないように一層気を引き締めて参ります。大変申し訳ありませんでした」

丁重に頭を下げる私の横で黒川さんは慌てたようにペコっと頭を下げた。

「あのねぇ、黒川さん。あなた、一応大人でしょ?得た情報をSNSで流すなんて信じられない。ネットリテラシーもないの?」
「すみません……」
「今回は白鳥さんの謝罪に免じて許すけど、次はないからね」

宣伝部長をビルの出口まで見送り、斎藤さんに頼んでおいたお詫びの品を渡す。

「お気をつけて」
「うん」

呼んでおいたタクシーに乗り込んだ宣伝部長を深々としたお辞儀で見送ったとき、そのタクシーと入れ替わるようにビルの前でタクシーが停まった。
降りてきたのは伍代さんだった。
不穏な空気を悟った彼は、私と黒川さんの顔を交互に見つめる。

「――どうしました?何かあったんですか?」

不思議そうに尋ねる伍代さんに私は別室で事の顛末を話した。


伍代さんとの話し合いを終えて営業部に戻ると、バタバタと忙しそうにしている人達の中で一人だけ椅子に座り肩を落とす黒川さんの姿があった。
彼女の周りの空気はずっしりと重たく、悲壮感が漂っている。
そのとき、部長と目が合った。部長は喜びを隠しきれないといった様子で私の元へ歩み寄り、ポンポンッと励ますように肩を叩いた。


「話は聞いたぞ~。黒川のせいで足を引っ張られてとんだ目にあったなぁ。今回のコンペも厳しくなっちゃって残念だ。せっかく局長が入ってくれたチームなのにな?」

今回の彼女の失態は営業部内にあっという間に知れ渡ったようだ。
黒川さんを可愛がっていたはずの部長ですら、彼女に冷ややかな目を向ける。

「聞いた話によると、今回のコンペでは経費をたくさん使うみたいじゃないか。ダメだったらその経費、全部無駄になっちゃうな。でも、しょうがない。この案件は局長が言い出したことだし、白鳥も巻き込まれた被害者だもんな?」

今回のコンペがうまくいかないことを部長が切に願っているらしいことはハッキリした。
新しく入ってきた年下の局長に嫉妬するだけでは飽き足らず、失脚することを願うなんて人間性を疑ってしまう。
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