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第五章 不穏と波乱
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しおりを挟むタクシーを降り、まだ眠気まなこのまま手すりを掴み、おぼつかない足取りで階段を上がっていく。
南向きの1LDKの間取りで駅から徒歩2分という好立地。二階建てアパートのニ〇一号室が私の住まいだ。
オートロックのドアを開けると、玄関でハイヒールを脱ぎ捨てスリッパを履き洗面所へ向かう。
手洗いを済ませてリビングに入ると、カーテンレールには干したままの洗濯物が引っ掛かっていた。
いつもだったら遅く帰ってきた日は見て見ぬふりをして翌日に回す。でも、今日は違う。
風呂を沸かしている間に、洗濯物を畳みブラウスにアイロン掛けをする。
帰ってきてからの私は常に動きっぱなしだ。
ゆっくりとソファに座ってしまえばあれこれ考えてしまうのは火を見るよりも明らかだった。
風呂上がりにはお気に入りのボディクリームを丹念に塗り込み、睡眠の質を高めるために柑橘系のリラックス効果のあるアロマを焚いてベッドに潜り込む。
日々の疲れでいつもならばすぐに眠りにつけるのに、目をつぶっても眠気がやってくる気配はない。
それどころか、瞼に浮かぶのは伍代さんの顔。
そして、スマホ画面の『幸子』の文字。
以前車内で見つけたゴールドのピアス……。あれも幸子のものなんだろうか。
そんな想像をすると、胸がギュッと締め付けられて苦しくなる。
「……はぁ。ありえない」
自分自身が信じられない。こんなことでクヨクヨする私は、私らしくない。
寝返りを打つ。
ギュッと目をつぶると、必死になって頭から伍代さんの残像を振り切った。
翌日、出社して席に座るなり、斎藤さんが私の顔をギョッとしたように覗き込んだ。
「白鳥さん、大丈夫ですか?相当お疲れみたいですけど……」
「はい、実はちょっと昨日眠れなくて」
伍代さんに『幸子』っていう女から電話がかかってきたのを知って寝不足になった……、と話したら斎藤さんはどんな反応をするだろうか。
あのあと、ほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。
どんなにショックなことがあっても、眠れないことなどないぐらい図太い人間の私がなぜ?
自分自身に問いかけてみても、結局答えを導き出すことはできなかった。
「あまり無理しないでくださいね」
「ありがとうございます。コンペまで残り10日ほどなので、頑張りましょう」
チームリーダーの私が疲れている様子を見せるのは、他のメンバーにもよくない。
私はメイクポーチを手に席を立ちトイレへ向かうと、お気に入りの口紅を塗り直した。
――私ならできる。
何かに悩んだり立ち止まりそうになったとき、こうやって私は自分自身と向き合って自分を励ます。
気持ちを切り替えて再び営業部に戻ると、黒川さんの姿を見つけた。
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