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第三章 近付く距離
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しおりを挟む「……やめておいたほうがいいと思いますけどね」
彼には話していないけど、最後に彼氏がいたのは大学生……当時二十歳のとき。
あれから、もう八年も恋愛というものから遠のいた生活を送っている。
それなりに恋愛はしてきたけど、胸を焦がすようなとか、我を忘れてとかそういう恋愛をしたことは一度もない。
元々淡白な人間なのだ。そんな私を口説くだけ時間の無駄だ。
それに……。
「前から想ってたんですけど、私と誰かを勘違いしてますよ。私、伍代さんと会ったことありませんし……」
「勘違いじゃないよ。それと、いつか絶対に好きって言わせるから覚悟しておいて」
彼は自信満々に言う。
体の関係を持った後に口説いてくるなんて正直信じらない。
けれど、きっと私を落とせないと知れば、すぐに気が変わり離れていくだろう。
食事を終えると、私はおずおずと尋ねた。
「そういえば、私は何をすればいいですか?さっき、お礼してって言ってましたよね?」
すると、彼はニッと意味深な笑みを浮かべたのだった。
時計の針は十三時を回ったというのに、私はいまだに彼の家にいた。
ダイニングテーブルでパソコンをひろげて仕事をしていると、何か食べたいものはあるかと聞かれた。
パソコンをジッと見つめながら無意識に「お寿司ですかね」と答えると、彼はすぐにデリバリーのお寿司を頼んだ。
「食べよう。ここの美味しいらしいから」
目の前の寿司桶には、職人が握った高級寿司が綺麗に並んでいる。
……こんなのおかしい。
あまりに手厚いおもてなしに、彼が何かを企んでいるんじゃないかと不安になってくる。
朝食を食べたあと、『今日一日、一緒にいて欲しい』と頼まれて、私は仕方なく受け入れることにした。
そんなことでお礼になるのか尋ねると、『俺にとっては最高のご褒美だよ』と彼は満足そうに微笑んだ。
食事を終えて代金を払うといっても、彼は頑なに受け取ろうとしなかった。
「これは俺の気持ちだから。誰だって、好きな人にはあれこれしてあげたいって思うものなんだよ」
「でも……」
「実咲は俺に甘やかされてればいいんだって」
お姫様のような扱いに戸惑う。
私はみんなから悪女と呼ばれる女だ。そんな女を甘やかして、何が楽しんだろうか。
「……わかりました。ご馳走様でした。すごく美味しかったです」
礼儀としてきちんとお礼を言うと、彼は「よかった」と心底嬉しそうな顔をする。
私はキッチンに立つ彼の後ろ姿をぼんやりと眺めた。
気分良さそうに、高級感のあるアイランド型の対面キッチンで洗い物をしている伍代さん。
私がやると言っても、「実咲は座ってて」と私に一切やらせてくれない。
ここは彼の家だし、どこに何があるのかもわからず、私は渋々引き下がるしかなかった。
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