20 / 100
第一章 謎のイケメン御曹司の登場
19
しおりを挟む
大通りを抜けて道を一本挟んだ場所にJJTの本社はあった。
彼の後に続いて受付に向かうと、受付嬢が息を飲みポッと頬を赤らめた。
「え……っと、東光エージェンシー様ですね」
横並びにいる若い受付嬢の二人の視線は真っすぐ伍代さんに向けられている。
まるで私が透明人間になったかのように、二人の目には彼しか映らないようだ。
「はい」
「しょ、少々お待ちくださいっ」
普段の彼女の声は知らないが、きっといつもより一オクターブぐらい高いだろう。
明らかな好意の色が全身から漂っている。
「ありがとうございます」
分かりやすく目の中にハートマークを描く受付嬢に微笑む彼は、やっぱりどうしようもない人たらしだった。
ミーティングルームに案内され、JJTの宣伝部長と営業部長と名刺交換を行うとオリエンが始まった。
企画の背景や顧客に伝えたいメッセージ、それからターゲット層の聞き取りや予算など細かい部分の聞き取りを行う。
一通りの話が終わると、伍代さんが尋ねた。
「一つお伺いしたいんですが、御社の系列チェーン店のCMは他社の伝堂に依頼していますよね?それなのに、どうして今回はコンペ形式をとろうとなさったんですか?」
「ああ、それね。ここだけの話なんだけど、伝堂は先代のころから贔屓にしてる代理店なんだよ。だけど、社長がずっと同じことをしていても仕方がないって言いだして。ニーズは時代によって変わるでしょう?」
宣伝部長の言葉に、彼が深く頷く。
「おっしゃる通りです。弊社も精一杯貢献できるように頑張らせて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします」
席を立ち揃って頭を下げたとき、「それにしても、美人な方ですねぇ」と禿げ散らかした50代ほどの宣伝部長が鼻の下を伸ばして私をいやらしい目で見つめた。
「本当ですね。美人なうえにスタイルもいいし、まるでモデルさんのようだ」
ビール腹の40代ほどの営業部長が私をつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめる。
すると、彼の視線が私の左手に注がれた。
「指輪はなし、か。こんなにべっぴんさんなのに、独身かぁ。あんまり男を選り好みしてると、婚期逃しちゃうよ」
完全なるセクハラ発言。宣伝部長の言葉は間違いなくコンプライアンス違反だ。
ふざけるな、クソじじい。
私はゴツゴツとした熊のように毛深い宣伝部長の左手を確認した。
指輪はあり、か。どうしてアンタみたいな男と結婚したのか奥さんにその理由を聞いてみたいよ、と心の中で呟く。
残念ながら、私はそんなことぐらいで傷ついたり動揺したりなどしない。
そちらがそのつもりなら、こちらはその手に乗るまでのこと。
「あの、それは――」
たまらず伍代さんが私と二人の間に割って入ろうとしたとき、私がそれを遮った。
彼の後に続いて受付に向かうと、受付嬢が息を飲みポッと頬を赤らめた。
「え……っと、東光エージェンシー様ですね」
横並びにいる若い受付嬢の二人の視線は真っすぐ伍代さんに向けられている。
まるで私が透明人間になったかのように、二人の目には彼しか映らないようだ。
「はい」
「しょ、少々お待ちくださいっ」
普段の彼女の声は知らないが、きっといつもより一オクターブぐらい高いだろう。
明らかな好意の色が全身から漂っている。
「ありがとうございます」
分かりやすく目の中にハートマークを描く受付嬢に微笑む彼は、やっぱりどうしようもない人たらしだった。
ミーティングルームに案内され、JJTの宣伝部長と営業部長と名刺交換を行うとオリエンが始まった。
企画の背景や顧客に伝えたいメッセージ、それからターゲット層の聞き取りや予算など細かい部分の聞き取りを行う。
一通りの話が終わると、伍代さんが尋ねた。
「一つお伺いしたいんですが、御社の系列チェーン店のCMは他社の伝堂に依頼していますよね?それなのに、どうして今回はコンペ形式をとろうとなさったんですか?」
「ああ、それね。ここだけの話なんだけど、伝堂は先代のころから贔屓にしてる代理店なんだよ。だけど、社長がずっと同じことをしていても仕方がないって言いだして。ニーズは時代によって変わるでしょう?」
宣伝部長の言葉に、彼が深く頷く。
「おっしゃる通りです。弊社も精一杯貢献できるように頑張らせて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします」
席を立ち揃って頭を下げたとき、「それにしても、美人な方ですねぇ」と禿げ散らかした50代ほどの宣伝部長が鼻の下を伸ばして私をいやらしい目で見つめた。
「本当ですね。美人なうえにスタイルもいいし、まるでモデルさんのようだ」
ビール腹の40代ほどの営業部長が私をつま先から頭のてっぺんまで舐めるように見つめる。
すると、彼の視線が私の左手に注がれた。
「指輪はなし、か。こんなにべっぴんさんなのに、独身かぁ。あんまり男を選り好みしてると、婚期逃しちゃうよ」
完全なるセクハラ発言。宣伝部長の言葉は間違いなくコンプライアンス違反だ。
ふざけるな、クソじじい。
私はゴツゴツとした熊のように毛深い宣伝部長の左手を確認した。
指輪はあり、か。どうしてアンタみたいな男と結婚したのか奥さんにその理由を聞いてみたいよ、と心の中で呟く。
残念ながら、私はそんなことぐらいで傷ついたり動揺したりなどしない。
そちらがそのつもりなら、こちらはその手に乗るまでのこと。
「あの、それは――」
たまらず伍代さんが私と二人の間に割って入ろうとしたとき、私がそれを遮った。
7
お気に入りに追加
398
あなたにおすすめの小説
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
【完結】エリート産業医はウブな彼女を溺愛する。
花澤凛
恋愛
第17回 恋愛小説大賞 奨励賞受賞
皆さまのおかげで賞をいただくことになりました。
ありがとうございます。
今好きな人がいます。
相手は殿上人の千秋柾哉先生。
仕事上の関係で気まずくなるぐらいなら眺めているままでよかった。
それなのに千秋先生からまさかの告白…?!
「俺と付き合ってくれませんか」
どうしよう。うそ。え?本当に?
「結構はじめから可愛いなあって思ってた」
「なんとか自分のものにできないかなって」
「果穂。名前で呼んで」
「今日から俺のもの、ね?」
福原果穂26歳:OL:人事労務部
×
千秋柾哉33歳:産業医(名門外科医家系御曹司出身)
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる