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第一章 謎のイケメン御曹司の登場

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JJTの本社は会社から電車を乗り継ぎ20分ほどの距離にあった。

「差し出がましいようですが、今回は強引すぎるかと思います」

電車を降りたあと、私は隣を歩く彼に切り出した。

「そうだね。だけど東光は守りに入りすぎだと思う。攻めないと落とせるものも落とせない」
「今回は局長もチームに入るんですよね?営業部に来てすぐの失敗はマズいと思いますよ。このままでは部長を喜ばせるだけです」
「もしかして心配してくれてる?」

口角を持ち上げて嬉しそうな彼にやれやれと息を吐く。

「あなたの心配をしているわけではありません。このコンペにチームリーダーとして携わる自分自身の心配をしているんです。とにかく、手を引くなら早いほうがいいと思います」
「いや、手は引かないよ」

すると、彼はJJTの目標額などをあっけらかんとした表情で私に伝えた。
めまいがする。
JJTの目標額を達成するためには、なおさらそれ相応の準備が必要だ。

「大きいですね。それでもやると?」
「もちろん」
「伍代さんは、今回のコンペに勝算があるとお考えですか?」

局長のポストを与えられたからには、営業部の実績を上げるようにという上層部の圧力はあるはずだ。
だからといって、何でもかんでも受け入れればよいということではない。

「勝算はある。今回は最前線に俺が立つ。負けないよ」

絶対的な口調だった。そこまで言いきられると、逆に潔い。

「自信満々ですね。ちなみに、今回うまくいけば、女の私でもそれなりの評価をしていただけますか?」
「もちろん。協力してくれるなら、の話だけど」

入社してからずっと営業の仕事を続けてきた私にはプライドも意地もある。
営業同期の女性は今や私だけ。
実績だって私の方が上なのに、男だからという理由で昇進し、役職をもらう同期をみているのは歯がゆかった。

「わかりました。協力します。女だからってナメられるのは嫌なので」

決意を込めて頷いたとき、ヒールが道路のわずかな溝にはまりぐらりと体が揺れた。

「わっ……」
「ーー危ない!」

それに気付いた彼は私の腰に腕を回し、ぐっと自分のほうへ引き寄せた。
互いの体がぴたりと密着する。

「大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます」

お礼を言ってすぐに彼から距離をとり、再び歩き出す。
心なしかさっきよりも歩くペースを落としてくれているようだ。
こういう小さな気遣いを自然にできる男に女は総じてときめくものなんだろう。

ちらりと伍代さんの横顔を見やる。
今日のネイビーのスーツもよく似合っている。
スッと背筋を伸ばして歩くその姿は周りの人の目を引く。
けれど、すれ違う女性たちの熱い視線が注がれても彼はそんなことお構いなしに真っすぐ前を見据えて歩き続ける。

……やっぱり、誰かに似ている気がする。
でも、それが誰かは結局思いだせなかった。
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