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始まりの始まり。

魔王、決戦を振り返りました。前編

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「勇者が人間の国に召喚されました。」

その報告を宰相から聞いたのは2年程前の事だった。

「勇者か…」

自分と対になる存在、“勇者”。
それでもその時は、ここに来るまでにはまだまだ時間が掛かるだろうな…位にしか思わず、ぼんやりと聞いていた。
それ程に、勇者という存在にも…魔王と言う自らの存在にも、全く関心がなかった。

宰相によると、異世界から召喚されたと言うその勇者は、史上最強だの化物だのと言う情報も多かったが、殺生を極力避けようとする甘さが報告の端々から見受けられた。
一度など、自ら我が軍をギリギリまでその超常的な力で追い詰めておきながら、過って我々の退路を開く、と言う宰相を始めとした重鎮達が揃って首をかしげる事までしでかした。
これには流石に玉座で声を殺して笑った。
その上、人間の多くにある亜人種に対する差別意識もまったくなく、亜人が治める国の王達とも気兼ね無く接している様子だと言う。

いずれ攻め込まれる我が方としては、実に危機感を煽られる事実だったが…ひどく興味を引かれた。

魔王と言う地位も望んだものではなく、他種族との争いも自身の意思で始めたものではない自分にとって、“勇者”は強い既視感と、押し付けられた役割の中で足掻こうとするその姿勢に眩しさを覚える存在になった。

その想いは次第に強くなり、勇者に関する報告を楽しみながら聞くようになっていった。

同時にその背後に強い嫌悪感と苛立ちを募らせるようになった。

排他的なあの人間の国は、魔王を倒したとて勇者を喜んで迎えはしないだろう。
勇者一行の構成を見れば一目瞭然だった。
人間至上主義の一神教、次期教皇とされる聖職者。
亜人の奴隷を実験台として非道な魔導研究を行う帝国筆頭魔術師。
皇帝の命ならば、それが如何なるモノであろうとも遂行する隠密騎士。
そして、かの国の思想を懲り固めたような第一皇子。
これだけ揃えておいて、なんの意図が無いとは言えないだろう。
この世界に無関係の勇者に全ての責任を被せておきながら、魔王討伐に成功した暁には良くて皇族として迎え入れての幽閉、最悪…殺害するつもりなのだろう。

そこまで予想がついていても、魔王である自分にはどうすることも出来ない。
魔王であるが故に…。
おかしな話だ、宿敵たる自分こそが一番その身を案じているなど。
愚かな事だ、会えば殺し合わねばならないのに。

それでも…あぁ、早く会ってみたい。
自分と戦う為だけに、ここにやって来る…勇者に。


――――――――――――――――――――――――――

もっと後でも…と思ったんですが、勇者と魔王の精神的な距離感に説明がつかないので、魔王視点での語りを入れることにしました。
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